南野が「プレミアA級ゴール」で示した資質 王様待遇で躍動、“無”から生んだ個人技弾
【イングランド発コラム】南野はサウサンプトン初陣で“個人の力”を見せつけた
素晴らしいゴールだった。速さ、強さ、上手さが渾然一体となったゴールだった。リバプールがなぜ日本代表MF南野拓実を獲得したのか、その理由を明快に説明したかのようなゴールだった。
まずはゴールの場面を振り返りたい。左からサウサンプトンのDFライアン・バートランドが蹴り込んだクロスを、南野は前に動き出しながら右足の完璧なファーストタッチでペナルティーエリア内に流し込み、そのまま加速して相手DFをかわすと、角度のない位置から左足を一閃し、ゴールネットの天井に突き刺さるシュートを放った。
凄まじい弾丸シュートだった。ニアに相手GKが寄って、全く隙間がないコースに蹴り込んで、脇を抜けたボールはビュンと伸びて天井のネットを揺らした。まさに無から有を生んだゴール。あのクロスをもらった時点ではまだ最終ラインの手前で、そこから絶妙のファーストタッチを見せて相手の最終ラインを切り裂き、ゴールへの道筋を作った。
その後、いったんスリップしたかのようにつんのめったが、トップスピードに乗ったままギリギリのところでこらえてバランスを取り戻したところに、強靭な体幹を感じさせた。そこから一瞬の間に相手DFを抜き去るスピードを見せ、さらにあの角度のないところから強烈なシュートをきっちり枠内に蹴り込んだ。
これぞ“インディビジュアル・ゴール”のお手本。個人技が生んだ、プレミアでもA級のゴールだった。さらに言えば、南野の1年間の成長をくっきりと浮かび上がらせたゴールであったと思う。
昨年の1月5日、リバプールのデビュー戦となったエバートンとのFAカップ3回戦後、初めて南野を取材した。
その時に個人的に気になる一言があった。それは「自分がチームのやり方にフィットしていくために、やるべきことをやっていかないといけないかなと思う。最初はチームがやることをしっかり理解して、プレーすることが一番重要かと思います」というものだった。
これは新しいクラブに移籍して間もない選手のコメントとしては常識的なものだろう。しかし20年間プレミアリーグを取材して感じることは、このリーグでレギュラーをつかみ取る選手は“自己主張に成功した選手である”ということだ。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。