「最高のお手本」 元日本代表MFが憧れた“天才”マラドーナ、名手も唸る“技術の妙”とは?
分かっていてもやられてしまう“凄さ”
そんなマラドーナの“凄さ”として、名波氏は「ボディバランス、ボールを運んでいく時のドリブルのルートチョイス」を真っ先に挙げた。
「マラドーナは左利きだから、やはり左、左、左、左という感じにドリブルのルートを持っていく。これは(リオネル・)メッシもそうだけど、そのルートは相手に読まれやすいものであるにもかかわらず、スピードが上がる直前や上げた後に小さなフェイクやなんらかのトラップが隠れていて、それによって対峙した相手の頭に『右もあるのか?』とふと浮かんだ瞬間、もう一回左に持ち直されたりする。自分の好きなほうにドリブルのルートを持っていける技術の妙だよね」
1986年メキシコW杯では、準々決勝のイングランド戦(2-1)で生まれたマラドーナの「神の手」と「5人抜き」によるゴールが伝説となっているが、名波氏は準決勝ベルギー戦(2-0)の2点目も印象に残っているという。
「先ほど言った、左に左にドリブルを持っていってからの左足シュート。当時観ていて、対峙したベルギーの守備陣に対して『なんでマラドーナを右に行かせないの?』と思ったけど、左に運ばれてしまうステップワークやフェイクがどこかに見え隠れしていて、分かっていても運んでいかれてしまう凄さがあるんだろうなと」
もちろん、対戦相手が徹底的にマラドーナの“左”を防ぐケースもある。その一つの例が、1990年イタリアW杯決勝トーナメント1回戦のブラジル戦(1-0)、マラドーナが右足でFWクラウディオ・カニーヒアの決勝点をアシストしたシーンだ。センターサークル内からドリブルを仕掛けたマラドーナが敵陣に侵入。待ち構えたブラジルの2選手が左前方のコースを切ったため、右斜め前へと進路を取ると、前線にいたカニーヒアが左サイドのスペースへダイアゴナルに走り、その動きを見逃さなかったマラドーナが倒れ込みながら右足でラストパス。ボールはブラジルの選手の股下を通ってカニーヒアへと渡り、GKとの1対1を冷静に制して決勝点が生まれた。
「前を向いた瞬間、左を全部消されちゃって右に運ぶしかないと。最後は右足のパスでアプローチに来た相手の股を通すんだけど、あの時マラドーナは一度左アウトに体勢を立て直して、左のアウトサイドでパンと叩くだけのスペースと時間がなかった。相手に体ごとプレッシャーをかけられていたから、おそらく左アウトに向いた瞬間に自分も倒されちゃうようなシーン。その時にカニーヒアがフリーになったのが見えたから、無理やりにでも出さなきゃいけないというところでの右足の選択だったと思います。
たぶん、あの瞬間でのマラドーナのファーストチョイスは、左のアウトサイドでのパスだったと思いますが、完全に体ごと潰されてしまうと判断したなかでの、セカンドチョイスかサードチョイスでの右足でのラストパス。あの舞台で瞬間的に切り替えられるのは凄いです」