ドイツの学者が「PKキッカーの心理状態」を研究 一瞬の勝負と駆け引きの“ドラマ”
ギクシャクしないように「無心で蹴る」は一つの真理
そういえばドイツの心理学者ヤン・マイアーが、PKを蹴る選手の心理状態を調べてみたことがあると、国際コーチ会議の講義で話していたことがあった。日常生活の中で僕らは90%以上は無意識化の思考で動いているのだ、と。脳は経験を重ねるなかで様々なことを学び、システム化をしていく。だから意識的に取り組もうとしないと、体は無意識のうちにこれまでの経験則に沿った行動をしがちだ。
ただ意識的に何かをするのはエネルギーを要する。だから普段からやっていないと、急に何かを考えようとしても頭がそれについてこないこともある。まして試合中は、様々な負担やプレッシャーやストレスがかかる。瞬時に自分を最適なメンタル状態に置き、相手の傾向を考慮し、最適な判断をするのは簡単なことではない。考えすぎて普段やったことがない動きをした結果、ミスキックになるなんてことも起こりうるわけだ。だから「無心で思いっきり蹴り込む」「四隅へ正確に蹴り込む」という決断に落ち着きやすい。
「考えたらギクシャクするから考えないほうがいい」というのは一つの真理であり、でも「考えてギクシャクしないように普段から考えて取り組んでみる」というのも大切なことではないかと思う。そこは選手の性格にも関係してくるだろう。
見ている分にはPKは一瞬だ。でもそこには様々なドラマと背景がある。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。