「練習でサッカーが上手くなる」は大間違い “習いごと”から脱却できない日本の現状
【識者コラム】日本の子供たちにとってサッカーは“娯楽”になっているのか
リバプールで育ち、日本在住歴が30年間を超えるトニー・クロスビー氏が言っていた。
「リバプールだけでなく世界中の子供たちにとって、サッカーはやらされるものではなくて、どうしてもやらなくてはならないもの。だからどんな小さな場所でも見つけ出してやろうとする。でも日本の子供たちにとっては塾や水泳、空手なんかと一緒なんだろうな。サッカーは遊びではなくて習いごと。すべては先生に教わって終わりなんだろうな」
サンパウロで育ち、コリンチャンスとプロ契約を交わしたセルジオ越後氏は、こう語っていた。
「練習をしたらサッカーが上手くなるというのは大間違い。ブラジルでは上手くなった子が練習をするようになる」
ブラジルの子供たちは、無数に存在する草サッカーチームで試合をするようになる。上手い子はどんどん引き抜かれ、下手な子は自分でも試合に出られるチームに移っていく。「だから補欠は1人もいない」のだという。
地球上のスポーツでサッカーが最も人気を集めているのは、手軽に楽しめる健康的な娯楽だからだ。誰でも入口をくぐりやすいので、飛びついてみるとそれが病みつきになる。
ところが日本の子供たちにとって、サッカーは依然として手近な遊びになっていない。大人がどんどん敷居を上げているからだ。
知人が中学に肢体不自由児の補助に出かけている。この学校の体育の授業で、しばらくサッカーをすることになった。体育を受け持つ女性教諭がサッカーは不得意なのか、特別に外部から専門のコーチを呼んだ。だが、おそらくこの判断は裏目に出た。
わざわざ外部から招聘されるサッカー経験者なので、最低限のライセンスくらいは取得しているだろう。しかし若い男性指導者は、サッカー未経験の女子生徒たちに基礎から教え込もうとした。リフティング、コーン当てキックなどの課題を出し、ある程度全員がクリアしたら試合を行うと話した。結局まだボールに馴染めない生徒は、球拾いには汗をかいても、コーン当ての待ち時間で体が冷えることになった。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。