「漢の中の漢」と呼ばれたワケ 李漢宰、キャリア20年に詰まった情熱と感謝の思い
【李漢宰インタビュー|Vol.1】町田以外でプレーする姿を想像できずに引退を決断
「漢(おとこ)の中の漢」――。在日サッカー選手の中で最長となるプロ生活20年を駆け抜けたMF李漢宰は、2020年シーズン限りで現役引退を決断した。新たにFC町田ゼルビアの「クラブナビゲーター」に就任することが決まったなか、全身全霊を注いだ“魂のキャリア”を振り返ってもらった。
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(取材・文=Football ZONE web編集部・小田智史)
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李漢宰とFC町田ゼルビアの契約満了が発表されたのは昨年12月12日。翌日に行われた昨季ホーム最終戦のJ2リーグ第40節・水戸ホーリーホック戦(1-0)終了後、ゴール裏のサポーターに向けてスピーチを行った際には、「正直、自分の中でまだはっきりしたことが決まっていないので、中途半端な気持ちでみんなの前に立つことを許してください」と、不透明な去就に関して複雑な胸中を明かしていた。
その後、12月25日に現役引退を発表するまでの13日間は、「正直なかなか整理がつかなかった」という。現役を続けたい――。そんな思いが頭の中を駆け巡る一方で、FC町田ゼルビア以外のクラブでプレーする姿が想像できなかったことが、決断の決め手となった。
「この2、3年は、『今年で引退してもいい』と毎年思っていました。ただ、2020年はコロナ禍で非日常的なことが続いていて、本当の意味で、サポーターや支えてくださった方々の前で恩返しができなかった。覚悟はしていたものの、クラブから契約満了を通達された時に、まだ現役を続けたいという強い思いはありました。身体的なことも含めて続けるべきか、ここで身を引くべきか……。引退を決断できたのは、FC町田ゼルビア以外でボールを蹴る自分の姿が想像できなかったから。それで、『引退しかない』と心に決めました」
李漢宰は2001年、在日朝鮮人3世選手として初めて朝鮮学校からダイレクトでJリーグ入り。サンフレッチェ広島でキャリアをスタートさせ、北海道コンサドーレ札幌、FC岐阜、FC町田ゼルビアで常に全身全霊をかけて戦ってきた。そのなかで、プロデビュー戦は、一番良き思い出であり、一番苦い思い出でもあると振り返る。
「プロの門を叩いて、ようやく自分が手応えを掴んだ試合(2002年5月9日/ナビスコカップ第5節対名古屋グランパス戦)で途中出場・途中交代(後半16分からピッチに立つも18分間で交代)という屈辱を味わって、そこから監督が代わるまで半年間メンバーに入れなかったのは思い出深いです。この環境で自分がサッカーをしていくのは難しいんじゃないか。そう頭をよぎったことはありましたけど、幸いにも僕の周りには素晴らしい先輩方がたくさんいて、その後押しもあって、ここで腐らずにやっていこう、と。そこをはねのけられたから、逆境にも負けずに最後まで走り続けられたのかなと思います」