プレミアでの衝突はなぜ起きたのか ドイツの日本人GKコーチが語る“判断力”の重要性
シュツットガルト下部組織で指導、日本人コーチ松岡裕三郎氏がGKの“判断力”を解説
最後の砦としてゴールを守るGKにとって、たった一つの判断ミスが試合の展開を大きく変えてしまう。だからこそ、一瞬で状況を見極め、最適なアクションを取るための「判断力」は絶対に欠かせない能力と言える。
そんな判断力の重要性がよく分かるシーンが、今季のプレミアリーグ第5節エバートン対リバプールで起きた。
2020年10月16日に行われた伝統のマージーサイド・ダービー。前半6分にエバートンのイングランド代表GKジョーダン・ピックフォードは、攻撃参加していたリバプールのオランダ代表DFフィルジル・ファン・ダイクへのアフタータックルで、右膝前十字靭帯損傷の大怪我を負わせてしまった。このプレーでピックフォードには警告すら出なかったことが大きな波紋を広げたことは、ファンの記憶にもまだ新しいだろう。
ピックフォードは、なぜファン・ダイクに無謀とも言えるタックルを仕掛けなければならなかったのか。GKの判断として何が問題だったのか。起きてしまったミスから学べることもあるはずだ。
今回はこの問題のシーンを基に、ドイツの名門シュツットガルトのU-14、15チームでGKコーチを務める松岡裕三郎氏に、GKとして必要な「判断力」とそれを身につけるための指導について解説してもらった。
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――イングランドのプレミアリーグで起きたピックフォードとファン・ダイクの接触シーンが話題になりました。
「そうですね。私もファン・ダイクが怪我をしたというニュースを見て、ハイライト映像を確認しました」
――ピックフォードの危険なタックルが物議を醸しました。GKコーチとして、率直にピックフォードのプレーをどのように見ていますか?
「私の見解としても、あれはレッドカードに相当するプレーで間違いないと思います。その前にファン・ダイクがオフサイドだったためにレッドカードはなかったということですが、ドイツの『スカイ・スポーツ』の番組でもピックフォードはレッドカードで退場が妥当だろうという意見が出ていました」
――ピックフォードは無謀とも言えるチャレンジで結果的にファン・ダイクを怪我させてしまったわけですが、GKとして問題はどこにあったのでしょうか?
「あの場面はリバプールのCKが一度クリアされて、その後にDFの背後にクロスボールが送られました。2回目のクロスが来る前に、GKはプレー原則としてスペースディフェンスに対する準備をしなければいけません。つまり、ディフェンスラインの裏に入ってくるボールに対して、飛び出すのか、飛び出さないかの準備をするということです。
ピックフォードはクロスに対して一度飛び出した後に、一瞬躊躇して足を止めてしまいました。そしてファーサイドにいたファン・ダイクの様子を見て、もう一度動き出すことになったので遅れてタックルする結果になってしまいました。もちろん故意にやったことではないはずですが、判断が中途半端になった、あるいは判断が遅れたことが原因と言えるでしょう」
――GKとして、どのような判断が最善だったのでしょうか?
「あそこは無理をして飛び出さず、ファン・ダイクのボールに対してアクションを起こしたほうが良かったと思います。なぜなら、ボールはゴールから離れるような軌道でしたし、(ファン・ダイクが受けた位置は)角度もなかった。ゴール前で構えて次のアクションに対して準備するのが最善でした」
――まさに一つの判断ミスが招いたアクシデントということですね。GKにとって一瞬の判断力が本当に重要であることがよく分かります。
「相手のレベルが高くなればなるほど、より早い判断が求められます。試合のテンポが早くなるのに合わせて判断を早くしなければなりませんから。パスがディフェンスラインの裏へのものなのかどうか。それがグラウンダーなのか、浮き球なのか。さらに、そこからスペースディフェンスに行くのか行かないのか、ゴールディフェンスや1対1のディフェンスへの切り替えをするのかどうかといった判断も求められます」