ブンデス「ワースト記録保持」を望む理由 シャルケ“31戦ぶり勝利”に独5部クラブが安堵
一度だけの夢舞台で誇りをもって戦い手にした記録
クラブの記録が危うくなったことでファンも動き出す。タスマニアファンはシャルケが30試合連続未勝利となったヘルタ戦前に、試合会場となるオリンピアスタジアムでシャルケへの応援プラカードを掲げたり、“You’ll never fail alone”(1人で落ちていくことはないよ)と”You’ll never walk alone”をいじった文章を、タスマニア・シャルケとともに胸に書かれたユニフォームを販売したりもしていた。
降格したタスマニアが、その後ブンデスリーガへ戻ることはなかった。今後もおそらくないだろう。一度だけの夢舞台――。そんなクラブはドイツにもたくさんある。忘れられたクラブも幾多ある。そんななか、タスマニアは確かなつながりをブンデスリーガと持ち続けている。
すがりつこうとしているわけではない。皮肉って自分たちを嘲っているわけでもない。でもこの記録は、当時のチームが必死に戦い続け、足掻いてもがき続け、クラブの、そして自分たちのために、誇りをもって立ち向かい続けたなかで生まれた記録なのだ。だからこそ、リスペクトをもって大切に向き合う。
そしてこれからもタスマニアは、ブンデスリーガの歴史にその名を刻み続けていく。”ライバル”シャルケの思いとともに――。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。