過熱する「ロングスローの是非」 Jリーグでかつて話題となった反則的な迫力と背徳感
【識者コラム】元千葉の“2m超”FWオーロイ、2011年のFC東京戦でロングスローからヘディング弾
マーク・ミリガンがロングスロー、2メートル4センチのノルウェー人FWトル・ホグネ・オーロイがヘディングで直接叩き込んだ。2011年J2リーグ、ジェフユナイテッド千葉のFC東京戦での先制ゴールは、極めて印象的だった。
2メートル超のオーロイの迫力と相まって反則的で、どこか背徳感のあるゴールに思わず笑ってしまったものだ。「こんなのありか?」と半分呆れてしまったわけだが、今年の高校選手権ではロングスローからの得点連発でちょっとした議論になっている。
ルール違反ではないし、ロングスローなど今に始まったやり方でもないので、高校生でもプロでも好きなようにやればいいと思うが、一方でどこか後ろめたい感じがついてまわるのはなぜなのだろう。ミリガン→オーロイのゴールも、正直ちょっと申し訳ない気がしたものだ。サッカーで全く足を使わないで得点というのが、珍プレーっぽいからだろうか。
「こんなプレーをしていたら、そのうちダメになる」
1940年代のイングランドでは、ロングボールとハイクロスを軸にした代表チームのプレーぶりに警鐘を鳴らすジャーナリストが何人もいたという。実際にイングランドがダメになるまでに30年ほどかかったわけだが、いちおう心配は現実のものになったと言える。
イングランドのロングボールとハイクロスは、いわば彼らのお家芸だった。それで1940年代あたりまではほぼ無敵だった。当時はキーパーチャージという概念もなかったという。ルールとしては存在していても、GKへの体当たりは黙認されていたようだ。現在もキーパーチャージはないが、GKへボールと関係なく体当たりすれば普通にファウルである。
背後からのタックルも見過ごされていたという。イングランドのホーム、ウェンブリー・スタジアムの試合はGKへのチャージも背後からのタックルもお咎めなし。アウェー側の選手たちはロッカールームで顔面蒼白だったそうだ。
英国『ワールドサッカー』誌のエリック・バッティ記者は、イングランドがワールドカップで初優勝した1966年でさえ、「アンチ・フットボール」と批判した。ただ、イングランドは近代サッカーの母国である。むしろイングランドのプレースタイルこそがフットボールであり、その伝統を継承してきたとも言える。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。