川崎のJリーグ連覇への道は意外と険しい? 二つのカップ戦決勝に見えた微妙な明暗
満身創痍の状態でFC東京の長谷川監督が見せた“対応力”
しかしこの窮状で、長谷川健太監督が見事な対応力を見せつけた。センターバックの森重真人をアンカーにコンバートし、リーグ戦同様に決定的な仕事ができるアダイウトンをベンチに残して勝負どころの終盤に備えた。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)も含めた異常な過密日程により総力戦でのやり繰りを強いられたことで、チームの底上げが急ピッチで進み、バリエーションが広がった。序盤からメンバー固定で突っ走った一昨年は終盤の息切れで逆転を許したが、逆に昨年度は故障や移籍の影響が見え難いほど戦力整備に成功した。
今年、川崎とFC東京は立場が変わる。それはFC東京に限らず、ACLで躍進、復調の兆しを見せたヴィッセル神戸や横浜F・マリノスも同様だ。川崎は急成長を遂げたアンカーの守田が移籍濃厚で、チームの象徴だった中村憲が引退。何より三笘不在だと、ゲームは支配できてもカウンターの威力も含めた決定力が一気に薄れる現実が克服課題として浮き上がる。
2020年度は絶対王者にしか見えなかった川崎だが、意外と連覇に向けては険しい道のりが待っているのかもしれない。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。