11年ぶりベスト4進出の山梨学院、タレント軍団を屈服させた緻密な“守備戦略”の裏側
持久戦に強く、粘りのあるチームが、初優勝した第88回大会以来となる4強へ
千葉・フクダ電子アリーナで5日に行われた第99回全国高校サッカー選手権の第1試合は、山梨学院(山梨)が1-0で前回ベスト8の昌平(埼玉)に競り勝ち、初優勝した第88回大会以来、11年ぶりの4強に進んだ。9日の準決勝(埼玉スタジアム)で前回ベスト4の帝京長岡(新潟)と対戦する。
山梨学院は、米子北(鳥取)との1回戦、鹿島学園(茨城)との2回戦をいずれも1-0で勝利。静岡県予選準決勝で前回王者の静岡学園を破って出場してきた藤枝明誠との3回戦も、1-1からのPK戦で勝ち上がったように、今年の山梨学院は持久戦に強く、粘りのあるチームだ。
前半7分だった。左サイドでFKを獲得すると、FW野田武瑠がファーサイドに蹴り上げたボールを長身DF一瀬大寿がヘッドで折り返した。そこへFW久保壮輝が、相手GKの捕球より一瞬早く空中のボールを捕らえ、頭で先制点をねじ込んだ。
「守備陣がゼロで抑えてくれると信頼していたので、自分たち(攻撃陣)でゴールを決めようと思った。あの形は練習していました。一瀬が折り返してくれると思ったので、 ボールが落ちてきそうなポジションに入りました」
多くのタレントを擁する優勝候補を撃破する殊勲のゴールを決めたヒーローは、誇らしそうに得点場面を解説してみせた。
80分を通じてシュートは4本。得点シーン以外の決定打は、前半32分にMF新井爽太のパスから抜け出したMF石川隼大が、2点目と思われたシュートを打った1度だけ。好機は極めて少なかったが、守りのリズムが抜群だった。勝因は昌平を丸裸にして分析し、強みを潰した守備戦略にあった。
古豪の秋田商(秋田)で17年間指導し、2019年から山梨学院で指揮を執る長谷川大監督の分析力、分析した結果をチームに落とし込む腕が素晴らしかった。相手の特長を消しつつ自分たちの持ち味を出す戦略を携えて、フクダ電子アリーナに乗り込んできたのだ。
指揮官は「1-0だが、いい試合ができました」と選手を褒めた後、「昌平は狭い地域で複数の選手が顔を出すので、局地戦に負けないことが大切だった。須藤君、平原君、荒井君の中盤に縦パスを出させないことも重要でした」と説明した。
さらに奥深い戦略の一端も明かし「両サイドバックに攻撃参加させないこともポイント。ボールを奪ったら、左サイドバック小澤君の裏のスペースで勝負させました。そうすると(左MF)須藤君も後ろ向きでプレーすることになりますからね」と言葉をつなぎ、事細かに解説した。
河野 正
1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。