“優勝候補”昌平、絶体絶命から奇跡の2ゴール 薄氷の勝利を呼んだ「最後は技術」の信念

10番でキャプテンを務めるMF須藤直輝【写真:河合 拓】
10番でキャプテンを務めるMF須藤直輝【写真:河合 拓】

仕掛けてFKを獲得した須藤が同点弾を演出、PK戦前に感極まって泣き崩れる

 後半アディショナルタイムの表示は3分だ。同40分に差しかかった時に敵のパスを奪い取った須藤がドリブルで侵入。「シュートするふりをして右に流した」と言う頭脳的なパスを受けた翼がゴール左隅に決めて1-2としたが、時計はすでに「44分」を回っていた。その時だ。

 須藤が左から豪胆に運び、ペナルティーエリア手前でファウルを受けてFKを獲得。疲労を感じさせないスピード豊かなドリブルで、当人も「ずっと課題だった縦突破からチャンスをつくれた」と自賛した。

 FKのキッカー須藤は御厨貴文主審から「これがラストプレー」と告げられていた。左から放ったボールに大輝が頭で合わせて起死回生の同点弾を流し込んだ。直後にタイムアップの笛が鳴ると、須藤は感極まって泣き崩れる。

 奇跡の同点劇からPK戦も9人ずつ蹴り合う死闘となったが、先行の高川学園の9人目が外し、昌平は小川が真ん中に沈めて決着をつけた。

 藤島監督に安堵の表情が浮かぶ。「最後は技術という信念でやってきましたが、それがゴールにつながったんだと思います」と卓越したテクニックが、逆転勝利を呼び込んだ要因とした。

 エースの小見も常々、指揮官と同じ話をしていた。

「監督からはいつも最後にものをいうのは技術だと言い聞かされてきた。日頃の練習で技術を向上させ、昌平は強くなりました」

 優勝候補が危うく初戦で姿を消す土壇場まで追い込まれたが、苦しい試合をものにした昌平はさらに強く、たくましくなって、新春2日に京都橘との2回戦を迎えることになる。

(河野 正 / Tadashi Kawano)



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河野 正

1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。

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