乱立する3つの「世界一」の称号 最も権威あるバロンドール、一番信用できる賞は?
結局3つも賞があるせいで、どれも有難みがなくなっている
FIFAのほうは、代表監督とキャプテンが選出するのであまり客観性がない。自国に有力候補がいる場合は、だいたいその選手に投票するからだ。2票にすぎないので大勢に影響はなく、無難なところには落ち着くのだが、無難すぎて面白味には欠ける。
一番後発のUEFAは、記者と監督による選出なので比較的公平で専門性もあり、例えば2019年に3賞で唯一、フィルジル・ファンダイクを選出している。ただし、欧州限定なので欧州クラブに所属していなければ受賞資格がない。今のところそれで問題ないとはいえ、「世界一」を選ぶ方式にはなっていないわけだ。
2020年の表彰を取りやめたバロンドールは、その代わりに歴代ベストイレブンを発表している。GKレフ・ヤシン、DFカフー、フランツ・ベッケンバウアー、パオロ・マルディーニ、MFローター・マテウス、シャビ・エルナンデス、ディエゴ・マラドーナ、ペレ、FWリオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、ロナウド。
この11人の中ではカフー、マルディーニ、シャビの3人に受賞歴がない。受賞歴で言えばDFはマティアス・ザマーとファビオ・カンナバーロのはずである。MFに受賞者はたくさんいる。あえてカフー、マルディーニ、シャビを選んだのは、過去の罪滅ぼしなのか。
最多受賞者はペレだ。ペレ? ペレは過去1回も受賞していない。受賞資格がなかったからだが、フランス・フットボール誌は現在の基準をあてはめて「7回受賞相当」に直してしまったのだ。同様にマラドーナも2回受賞したことになっている。このあたりは雑誌らしい自由さだが、バロンドールの権威を自ら貶めている感もある。
結局、3つも賞があるせいで、どれも有難みがなくなっている。今回のレバンドフスキはFIFA、UEFAが揃って選出したので重みは十分だが、毎回3つとも同じ選手が受賞するのであれば、3つもいらない気もするのだが……。
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(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。