FC東京がJリーグ制覇へ“前進した”理由 「2位→6位」と成績下降も…戦力アップを証明
【識者コラム】逆風の中で新戦力が台頭、ACL帰国後の2試合で証明した底力
昨年の2位から6位へと順位を落としたFC東京だが、むしろ長谷川健太監督が目標とする「シャーレを掲げる」ための準備は前進したと見ることもできるシーズンだった。
昨年はメンバー固定のチームに、突如として久保建英(現ビジャレアル)という切り札が現れ、それがチームの伸びしろとなって前半戦を突っ走った。だが現実的には過渡期を迎えており、久保の移籍とともに鮮度が失われ、象徴的だったのが優勝を賭けた横浜F・マリノスとの最終戦。両チームの勢いの相違が浮き彫りになり、0-3で完敗した。
だがAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場とコロナ禍による過密日程、室屋成(現ハノーファー)、橋本拳人(ロストフ)の移籍、さらには東慶悟や林彰洋の故障と押し寄せた逆風は、クラブにとって戦力を洗い直す格好の機会となった。
もちろん、こうした状況に追い込まれた長谷川監督は「初めての選手も使い、新しい方向性を構築しなければならない夏場は苦しかった」と振り返る。しかしすでにシーズン後半には、右サイドバックで中村拓海が、ボランチでは安部柊斗が、まるで十分なキャリアを積んだベテランのように安定したパフォーマンスを見せるようになり、最後尾からは22歳の守護神・波多野豪の大声が鳴り響くようになった。ゲームを作る能力に長けた中村拓は、室屋とは異なるテイストをチームにもたらし、開幕から抜擢され続けた安部はもはや不可欠の存在として攻守にプラスアルファをもたらしている。
またACLから帰国後のリーグ戦残り2試合では、チームの底力を証明した。どちらもボール支配は譲ることになるが、集中した守備で隙を作らず、効果的なカウンターとセットプレーに活路を見出し競り勝った。広島戦では堅守から攻撃へ切り替えるスイッチを入れる役割を託されたベテランの三田啓貴が、キックの精度を含めて出色のプレーを見せ、生え抜きの品田愛斗が視野、技術的精度、アイデアなどで可能性を示した。さらに今年は出場機会が少なかったが、残り2戦でチャンスを与えられた紺野和也も、カウンター起動のドリブルだけではなく鋭い出足でボール奪取でも能力を見せた。そして主にサイドアタッカーとして起用されてきた原大智は、当然ながら中央でも空中戦の強さを発揮しており、確実に選択の幅は広がった。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。