アギーレジャパンのマエストロ候補、柴崎岳 遠藤保仁を超えられるか
「背番号7」遠藤保仁と柴崎岳の“違い”
9月9日、横浜国際で日本-ベネズエラが行われた。4‐1‐2‐3システムで臨んだアギーレジャパンは2-2ドロー。後半6分に代表初招集のFW武藤嘉紀の代表初ゴールで口火を切るも、直後の後半13分に水本がPKを献上し、同点とされる。後半21分にはFW岡崎慎司のクロスから、こちらも代表初招集のMF柴崎岳がエクセレントなボレーで勝ち越しゴールを奪うも、後半26にGK川島永嗣が信じられないミスで再びスコアをタイに戻され、そのまま試合終了となった。
2失点目は川島のミスであることに間違いはない。しかし、あのシーンをただのGKのミスで終わらせるべきなのか。
少し時間を巻き戻してみよう。あの正面に飛んできたミドルシュートがゴールに入るという、トップレベルでは考えられない凡ミスが生じる前の瞬間、つまり、シュートを打たれた場面である。
相手DFガビリエル・シチェロはフリーの状態でミドルシュートを放ったわけだが、柴崎とアンカー役を務めていた森重真人が本来警戒すべきスペースを空けてしまっていた。失点後も同じスペースから立て続けにミドルシュートでゴールが脅かされた。
この失点の直前、柴崎はゴールを決めている。初ゴールを決め、気持ちの緩みもあったのかもしれないが、セントラルミッドフィルダーの細かいミスが失点の一因になった可能性は否定できない。
そこには柴崎と長らく日本代表の中盤を支えてきた遠藤保仁との決定的な差が見て取れた。
柴崎の勝ち越しゴールは難易度が高く、技術の光るシュートだった。浮いたボールを正確にミートし、ここしかないというコースに流し込んだ。キックの精密さ、プレースタイルから、「ポスト遠藤」に最も近いのは柴崎かもしれない。しかし、あくまで現時点ではあるが、遠藤と柴崎には決定的な違いがある。その違いが、ベネズエラ戦の2失点目の場面に直結したのである。
ゆったりとしたプレースタイルの遠藤は、「運動量」、「走る」というイメージから乖離しているが、決してそんなことはない。
2010年W杯南アフリカ大会では4試合で計389分間に出場し、走行距離は47.02km。この数値は、FW本田の45.48km、DF長友の45.43kmを抑え、南アフリカ大会での日本代表最長記録となっている。
それでは、なぜ遠藤は走るイメージを持たれないのか。それは走る目的地にある。遠藤は長友のように相手、もしくはボールに向かって縦横無尽に走るわけではない。遠藤の走る先は、「スペース」である。相手のパスコース、シュートコースを防ぐためのカバーリング、ポジショニングに非常に長けているのだ。
ゲームメイクの役割を担う柴崎にはMF長谷部やMF細貝のようにボール奪取にガツガツ走り回る仕事はそこまで求められないが、遠藤のようにピッチ全体の状況を把握する幅広い視野を持ち、その時その時に適切なポジショニングを行うことが必要だ。それこそが、ピッチを指揮する“マエストロ”の資質である。