堂安律が握る“昇格組”ビーレフェルトの命運 独メディアも注目「動きが滑らかで機敏」
【ドイツ発コラム】ベテランFWシプロックの起用でビーレフェルト攻撃陣に変化
日本代表MF堂安律がビーレフェルトで誰よりも重要な戦力になっている。第10節マインツ戦(2-1)で1ゴール1アシストの活躍を見せ、チームを今季2勝目に導いた。
ただのゴールではない。ただの1勝ではない。
昇格シーズンを戦うビーレフェルトにとっては、一つひとつのゴールと勝ち点がかけがえのない価値を持つ。得点チャンスは他クラブのように多くはない。味方からのサポートもいつでも十分にあるわけではない。
単独できっかけを作ろうにも、相手が複数で取り囲んでくる。そうした厳しい状況の中で、シュートチャンスにつながるプレーを見せなければならない。
マインツ戦のアシストは、左サイドからのセンタリングに対して相手選手より早く落下点に入ると、相手の寄せを力強くブロックしながら、ボールを見事にコントロール。そこからのパスを、MFマヌエル・プリートルがゴールを打ち抜いた。
加入直後から堂安はチームにとって大事な戦力になっていたが、序盤戦はそれでも決定機を演出するまで持ち込めないことが多かった。局面的には鋭いプレーで打開するが、それがチャンスまで結びつかない。味方の押し上げがなかったり、パスを受けた味方が焦ってボールロストしてしまったり……。そんなビーレフェルトにとって少なからず変化が生まれたのが、FWスベン・シプロックのスタメン起用だ。このマインツ戦からFWファビアン・クロスとの2トップを形成するようになったことで、前線の起点が増えている。
ブンデスリーガ161試合出場というチームで断トツの数字を持つこのベテラン選手は、ピッチに立つとどんな時でも本当に自分の力のすべてを出しきる。たとえ出場が2分だったとしても、その時間でできるすべてをやりきる。まさに「ボールがピッチから出るまで何が起こるか分からない」と、ぎりぎりのところまで食らいつくことを体現できる選手がチームに大きな力を与えているのだ。
監督のウーベ・ノイハウスは「スベンは相手にとって非常にやりにくい選手」とその働きを高く評価しているが、その恩恵を堂安も受けている。ボールを収め、ボールを運んだ後にパスを出せる選択肢が増えたことで、ゴール前でボールに絡める頻度がアップ。マインツ戦の得点をアシストしたのもシプロップだった。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。