“運命の悪戯”が引き寄せた”最高のドラマ” サッカー界を彩るクロップとドルトムントの物語

ドルトムントが示したクロップへの愛情

 もっとも、ドルトムントの誰もが14-15シーズンの不振を招いたクロップ監督の退任を望んでいたかと言われたら、答えは「NO」だ。リーグ最下位から抜け出せずにいた一昨年の12月も、ドルトムントサポーターは敗戦後、「落ちる時はクロップとともに」という横断幕を大々的に掲げた。解任を要求する大ブーイングが起きてもおかしくない状況下で、サポーターは指揮官への愛情を貫いた。最終的に退任という結末を迎えたが、誰もがクロップ監督の功績を称え、メガネがトレードマークの情熱家は惜しまれながらドルトムントを後にしている。

 そしてチームは、後任にトーマス・トゥヘル監督を招聘。マインツからドルトムントに活躍の場を移し、成功を収めたクロップ監督と同じ道を歩むことになったトゥヘル監督も、それまで指揮していたマインツでの経験をドルトムントにうまく取り込むなど、長期政権からの刷新は順調すぎるほどスムーズに進んだ。序盤戦から好調を維持し、「クロップ黄金期」が最高の思い出へと変わろうとしていた時、英雄が敵将として、あまりにも早い帰還を果たすことが決まったのである。

 昨年10月、クロップ監督はわずかな休養期間を経て、ブレンダン・ロジャース前監督を解任した名門リバプールの指揮官に就任。活躍の場を自身初のプレミアリーグに移した最初のシーズンに、ELの舞台で古巣との対戦が実現するなど、退任した昨夏の時点で誰が予想できただろうか。

「昨日は、ドルトムントとは戦いたくないと言った。けど、今は嬉しい。この大会で優勝するには、どこかで最強のチームと当たらなければならないものだ。それに、かつての仲間たちに、今率いているチームを紹介する最高の機会だよ。これは、フットボールだけが描くことのできるシナリオだ。素晴らしい、こうでなくちゃ!」 

 抽選会後、クロップ監督はサッカーの神様が与えた”運命の悪戯”に抗う姿勢は見せなかった。優勝チームにはCL出場という特権が与えられるこの大会は、リーグ戦で浮上のきっかけを掴めないリバプールにとって、より重要な存在となっている。当然、早い段階での優勝候補最右翼との対戦は喜ぶべき事態ではない。冒頭で記した「決勝で対戦したい」というクロップ監督の発言には、「ドルトムントとは一発勝負に持ち込みたい」との考えも、少なからず含まれていたはずだ。

 

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