マラドーナは“ぼろきれ”のようになって闘い続けた 天才の心に生き続けた原点のチーム
「純粋なプレー、美、チームへの愛。そのために全員がプレーしていた」
社会学者になったチャマーは、「極貧というのは現在の状況だ」と話していた。
「洞穴のような住居に住み、社会的な救済はなく、親の愛情からほど遠いところにいる」
ロス・セボジータスは、ウルグアイやチリへ親とともに遠征に行ったこともあった。
「私の銀行の同僚は、10番(マラドーナ)より8番のほうがいいと言っていたよ」(コルネーホ)
「ディエゴだけが特別だったわけじゃない。例えば、ゴージョは2部のクラブでプレーしたけど、パブロ・アイマールくらいの才能はあったと思うよ。運にも左右される」(チャマー)
少年マラドーナは、ロス・セボジータスで後のイングランド戦のようなゴールを決め、アスレティック・ビルバオ戦のような乱闘もやっていた。もうすでに、我々の知っているマラドーナだった。
「純粋なプレー、美、チームへの愛。そのために全員がプレーしていた。俺は今でもあのチームの一員だ」(マラドーナ)
どんなに栄光に包まれ、スキャンダルにまみれても、マラドーナは一貫してマラドーナだったことに気づく。心の中の「ロス・セボジータス」のために闘い続けていたのかもしれない。そのために「ぼろきれ」になるほどだったとすれば、それはマラドーナの不幸というよりサッカーの不幸だろう。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。