コロナ禍の“特殊なシーズン”で定まった「FC東京の色」 来年以降の開花準備は整った
【識者コラム】ACL出場組にとって不平等だった今季Jリーグの日程
FC東京がAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出発前のホーム最終戦(北海道コンサドーレ札幌戦/1-0)をしぶとく勝利した。
総じてポゼッション率は譲り、スプリント回数では相手を凌駕するチームなので、どうしても内容と結果が反比例しがちだが、そういう意味では「らしい」勝ち方だった。決勝点となった先制ゴールのシーンも、相手のミスパスをセンターバックの森重真人がダイレクトでボランチの安部柊斗につけ、安部もターンとともに裏へ抜け出す永井謙佑のアクションを視野に捉え間髪を入れずにパスを出した。最終ラインからパス2本で生み出したゴールを、長谷川健太監督も「東京らしい攻撃」と称賛した。
逆に独特のスタイルでFC東京を脅かし続けながら惜敗した札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は「彼らが守備を固めてカウンターを選択したのは、我々へのリスペクトの表れだろう」とプライドを口にした。
ACLを控えたFC東京はすでに30試合を消化し、勝ち点50で暫定3位という状態だ。
過去10年間のJ1を振り返ると、3位の平均勝ち点が「63.4」、4位は「58.6」だから、あと4試合を残すFC東京が狙えない数字ではない。ただし現実的には、今後アウェー連戦を終えるとカタールへ旅立つので、ACLで勝ち進めばもちろん、もしグループステージで終えたとしても遠征メンバーは14日間の指定場所での待機が義務付けられるため、J1最後の2試合には出場できない模様だ。こうした状況を考えると、クラブ史上最高の2位だった昨年の成績を維持することは難しくなった。
だがコロナ禍に見舞われた今年は、ACLの日程の変更が繰り返されたこともあり、参加チームへのハンデはあまりに大きくなった。幸か不幸か、今年はACLに不参加の川崎フロンターレが早々と独走態勢を確立したが、横浜F・マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督が「この不公平なスケジュールでは、とても強度の高いパフォーマンスは発揮できない」とこぼしていたように、ACL参加組が優勝戦線に絡んでいたら、もっと不平等な日程はクローズアップされていたはずだ。
そして改めてこうした諸条件を考えれば、コロナ禍の特殊なシーズンは、むしろFC東京には追い風になった可能性もある。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。