クライフ「14番の伝説」 控え選手の番号を、特別な数字に変えた偉才のカリスマ

西ドイツW杯での目を疑うようなあのシーン

 選手として、また後に指導者へ転じてからも、常識や予定調和の枠に収まる人ではなかった。保守とは対極にある革新のアイコン。空前のイノベーターだった。

 基本ポジションはセンターフォワードだが、最前線に張り付くことを嫌った。ピッチの至るところに現れては消え、また現れる。現在で言うところのゼロトップの理想像、いや、そんな枠組みに収まりようのない破格の才能にあふれていた。

 神出鬼没。敵ばかりか、味方をもカオスに巻き込みかねない異分子のように見えながら、その実は味方に秩序をもたらす存在だった。凡人には決して見えないもの(真理)が、クライフだけには見えていた。

 印象深いシーンがある。1974年の西ドイツW杯2次リーグのブラジル戦。オフサイドトラップを狙って味方が一斉にラインを押し上げる中、すごい勢いで自陣に後退する人影があった。

 次の瞬間、オフサイドの網をかいくぐり、2列目から最終ラインの裏へ抜け出たブラジル人の走る先に、その影がこつぜんと立ちはだかる。ほかでもない、クライフであった。

 敵の企図を見透かし、最前線からカバーに戻ったのだ。味方の最終ラインの背後へ回り込み、危機を未然に防ぐアタッカーを目にしたのは、後にも先にも、この時のクライフだけである。この先、何が起きるか。彼だけが「見えて」いた。

「何でも分かることは楽ではない。他人に対して、常に間違いを指摘しなければならないからだ」

 この言い方が尊大な印象を与えるのは確かだろう。ただ、物事の多くはクライフの言うとおりになった。自動販売機のコインの入れ方や信号機の配置まで「何が適切か」を周囲に説いて回ったという。

 

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