“王国再生”に挑んだオーストラリア人指揮官、無念の退任 “長期プラン”が頓挫した理由とは?

清水前監督ピーター・クラモフスキー氏【写真:小林 靖】
清水前監督ピーター・クラモフスキー氏【写真:小林 靖】

【海外識者コラム】清水のクラモフスキー前監督が目指した変化

 新型コロナウイルスが日本サッカー、そして生活レベルにも大きなダメージを与える前、今は清水エスパルス“前”監督となったピーター・クラモフスキーと話す機会があった。彼は“サッカー王国”静岡の再生という挑戦に、誇りを持って取り組んでいた。

 彼は長いスパンでクラブの土台を作り上げることを望み、若手の起用によって成績だけでは測れない成功を目指していた。しかし、明確なアイデンティティーと哲学の下でプレーし、この路線で成功することができれば、クラブは以後何年にもわたって力を付けることができる。

 日本サッカー界において、どれだけのクラブが短期的な結果を許容し、長期的な成功とアイデンティティーの構築にフォーカスできるのだろうか? 監督が交代しても引き継がれる明確な哲学を、どれだけのクラブが保有しているのだろうか?

 私見だが、そうしたクラブは日本のトップレベルでプレーするうち半分以下だろう。川崎フロンターレ、ガンバ大阪、柏レイソル、セレッソ大阪、そして現在であれば横浜F・マリノスも入るだろう。

 監督もクラブも求められるプロセスは明確に理解していた。チームのプレーに劇的な変化を求めるのであれば、時間はかかる。では、エスパルスとオーストラリア人監督は何が問題となり、袂を分かつことになったのだろうか?

 もちろん、結果は両者が望んだものではなかった。安易な失点を許し、なかなか好転しない状況にあったが、2020シーズンは特殊な状況下にあったことを考えれば、未来に向けての投資が一つの目標だったことは確かだろう。

 それでもエスパルスは過去2年間、ボールポゼッションとチャンスクリエイトでJ1下位に沈んでいたが、今季はいずれもトップ6に入っている。半年でリアクションとカウンターアタックのチームから変化し、ポゼッションを握って自分たちからチャンスを創出するチームになったのだ。サポーターにとってはクラブが正しい方向に動き始めていることが分かる内容であり、Jリーグ創設期の清水が誇りとしていたサッカーだったはずだ。

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スコット・マッキンタイヤー

東京在住のオーストラリア人ジャーナリスト。15年以上にわたってアジアサッカー界に身を置き、ワールドカップ4大会、アジアカップ5大会を取材。50カ国以上での取材経験を持ち、サッカー界の様々な事象に鋭く切り込む。

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