勝つだけではない「楽しさ」の追求 マンC、リバプールに見る世界トップレベルの貪欲さ
【識者コラム】マンCとアーセナルの一戦で感じた“トータルフットボールの進化系”
プレミアリーグ第5節、マンチェスター・シティとアーセナルの対戦は、ジョゼップ・グアルディオラとミケル・アルテタの“師弟対決”でもあった。1-0でシティが貫禄勝ちしたが、両チームのプレースタイルが非常によく似ていたのが印象的だった。
シティはペップが現役時代のバルセロナの定番だった3-4-3、アーセナルもいちおう3-4-3だが、どちらも選手のポジションはかなり流動的だった。従来のポジションの概念で見てしまうと、誰がどこにいて何がどうなっているのか理解できないスタイルである。
どちらも原則ははっきりしている。多くのパスコースを作ること。そのうえで幅を取る、中間ポジションに入る、チャンスをとらえて裏を狙う。そうしたプレー原則を守るために、逆に人の動きは自由であったほうがいいという考え方だ。
この試合ではシティのほうがポジションはやや固定的だった。フィル・フォーデンとリヤド・マフレズがタッチラインいっぱいに開いて幅を取る役割がはっきりしていた。アーセナルのほうが、幅を取る選手も柔軟である。
DFもシティが3バック基調なのに対して、アーセナルは攻撃では2バック、そこから押し込まれるに従って3→4→5と最終ラインの形成人数が増えていく方式で変化は大きい。ハイプレスの時は2-4-4に近い位置取りだった。
どちらも攻守ともに、その時の状況に合わせてポジショニングが大きく変化するので、システムで見てしまうとまず訳が分からない。1970年代のオランダに代表されるトータルフットボールの進化系と言える。
ところで、なぜトータルフットボールだったのか。ヨハン・クライフが言っていたことが、意外と核心なのではないかと思っている。
「プレーヤーは誰でもボールをプレーしたいものだ。子供でもプロでもそれは同じ。パスを回して、みんながプレーに参加するサッカーのほうが面白い」
もちろん勝つためという理由もあるだろうが、サッカーで絶対不敗のスタイルなどないわけで、どうやって勝とうとするかしか選べない。そこで、どうプレーしたら楽しいかを追求した結果がトータルフットボールだったというわけだ。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。