ゲッツェのPSV移籍がドイツサッカー界を変える? 強国の誇りと育成年代に広がる危機感
年代別代表の指導者は危機感 「新しい道を行くことが絶対的に必要」
例えばバイエルンのセカンドチームは、昨シーズン3部リーグで優勝を果たしているが、最終的にバイエルンのトップチームに昇格するためには、そこでの経験はどれだけのプラスになるのだろうか。
ドイツ最高のタレントの1人とされていた20歳FWヤン=フィーテ・アルプは、ハンブルガーSVのトップチームに17歳で昇格して以降成長が止まり、その後バイエルンに移籍してきたものの、怪我の影響があったとはいえ、いまだに1試合もトップチームで出場できていない。こうした例は、他の若手選手にも見られている問題点だ。
ドイツのU-21代表は、U-21欧州選手権予選でベルギーに2敗を喫し、一時は首位から陥落(現在は首位に立っている)。ドイツサッカー連盟の年代別代表指導者チーフを務めるヨティ・シャツィアレクシウ氏は、「ここ最近の年代別代表の結果には満足していない。試合内容にしても、自分たちの目的を達成するのに危ういと感じさせられる。我々は育成システムの変化、指導者育成の分野においても、新しい道を行くことが絶対的に必要だ」と危機感を露わにしていた。
そうした点からもゲッツェがオランダ移籍を決断したというのは、ドイツ人若手選手がより適した出場機会を探すうえで重要なメッセージとなるのかもしれない。
すでにPSVでは元シュツットガルトのDFティモ・バウムガルトル、元アウクスブルクのDFフィリップ・マックスがプレーしているし、元ドルトムントのFWマクシミリアン・フィリップは最近までロシアのディナモ・モスクワに所属(現在はヴォルフスブルク)。移籍先をブンデスリーガ内だけではなく、他国に選ぶ選手が増えてきている。
サッカーリーグはイングランド、スペイン、ドイツ、イタリアだけではない。フランス、オランダ、ベルギー、オーストリア、チェコ、デンマーク、スイス、ポーランドなど、各国様々なリーグと様々なクラブがあるのだ。
近年で見れば、オーストリアのザルツブルクから日本代表MF南野拓実をはじめ、同じくリバプールでプレーするサディオ・マネ、ナビ・ケイタら数多くの逸材が育っていることからも、リーグやクラブの名前だけで選ぶのではなく、確かな哲学と丁寧な育成ができるクラブで切磋琢磨するほうが選手の成長には間違いなくつながっていくはずだ。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。