ゲッツェのPSV移籍がドイツサッカー界を変える? 強国の誇りと育成年代に広がる危機感
【ドイツ発コラム】ドイツ人サッカー関係者が抱くブンデスリーガへの誇りと“危険性”
2014年ブラジル・ワールドカップ(W杯)でドイツを優勝に導いたマリオ・ゲッツェが今季オランダのPSVに移籍し、スタメンデビューを飾ったズウォレ戦(3-0)で早速1ゴールをあげる活躍を見せた。
ゲッツェはドイツメディアからの注目が今でも高い。移籍に関するニュースは各メディアで常に大きく取り上げられている。昨シーズン、ドルトムントでは途中出場ばかりで15試合の出場しか叶わず、公式戦出場は実に145日ぶり。そんなデビュー戦での初ゴールだっただけに感慨も大きかったことだろう。
試合後のテレビインタビューには、「またピッチに立つことができて嬉しい。それが僕にとってすごく大事だったんだ」と笑顔で答えていた。トーマス・ミュラーやジェローム・ボアテングら様々な知人・友人から祝福の声が届いたという。ゲッツェ獲得を熱望し、直接獲得交渉に乗り出したPSVのロジャー・シュミット監督は「典型的なゲッツェらしいゴールだった。インテリジェンスがあり、賢さを感じさせる。いいプレーをしたが、まだ100%ではない。もう少し実戦が必要だろう」と満足気に振り返っていた。
一方、ドイツ国内では今回の移籍を「都落ち」と捉えている傾向が強いと感じる。代表とバイエルンで同僚だった元ドイツ代表キャプテンのバスティアン・シュバインシュタイガー氏は、「選手はいつでもプレーしたいし、プレーしないといけない。新しいスタートが上手くいくことを祈っている」としながらも、「サッカー選手としてベストの年齢時に数歩後退しなければならないのは残念だ」とも話していた。
ブンデスリーガは世界最高峰リーグの一つ。これはドイツ人サッカー関係者にとっては誇りであり、同時に足かせにもなっているのかもしれない。ブンデスリーガのクラブでしっかりと出場機会を確保できている選手はいい。でも、そこに固執しすぎるのは逆に選手の可能性を狭めさせる危険性もあるはずだ。
特に若手選手にとっては、出場機会は非常に重要だ。もしブンデスリーガでプレーできなければ、2部リーグでという考えがドイツでは一般的なのだろうが、そのルートが果たして選手の成長に適切なのだろうか。あるいはセカンドチームで経験を積むというバリエーションもあるが、これもどのクラブにも当てはまる取り組みなのか。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。