森重のアンカー起用はサプライズではない 4年前に消えたある監督のゲームプラン
世界に通ずる場所
そんな折、城福監督は、森重をドイスボランチの一角に据える布陣を試みている。ただし、それは、事態を好転させる起爆剤とはならなかった。なぜなら当時の森重は、けがから復帰したばかりで、中盤の選手として90分間を持ちこたえる運動量に不安を残していたのだ。けがの再発の恐れもあり、試合と試合の合間に練習の強度を上げきることもできず。60分間近くまでは高いパフォーマンスを見せたとしても、それを試合終了まで継続させることは難しい状態にあった。
だが、指揮官は、森重を粘り強く起用し、試合の中でゲーム体力を補おうとしていた。それは、2つ目のプランの導入時期を模索していたからだ。
「アンカーをできる日本人はそうはいない。だが、森重ならそれができる才能がある。高さ、対人の強さ、そして技術と、展開力も備えている。運動量に問題はあるが、最終ラインの前に置くにはうってつけの素材だよ、あいつは」
そう信じて、森重を中盤の底に配置する、4-3-3システムを練習試合でも取り組み始めた直後のことだった。城福監督は10年9月に、成績不振を理由に解任され、そのプランは日の目を見ることなく消えるはずだった。
その後、FC東京も降格の憂き目にあい、森重自身もそこからはい上がって今夏のブラジルワールドカップにセンターバックとして出場を果たした。だが、5日の札幌ドームには、森重はいるべきはずだった場所に立っていた。
この4年、森重の中盤での出場機会はゼロだ。4年前と同じく運動量にはまだまだ問題を抱えている。ウルグアイ戦後、その彼は苦笑いでこう答えている。「楽しすぎて足をつっちゃいました」。
だが、リベロと、アンカーの2つの適性を持つ彼がピッチにいることは、大きな可能性を広げることになるだろう。なぜなら彼は、アギーレ新監督が試合中に行うドレスチェンジを可能にする鍵を持っているからだ。
当時、城福監督は、こうも言っていた。「もしも、あいつが世界に出て行くなら、あのポジション(アンカー)かもしれないね」。失われた4年の歳月をへて、収まる場所に収まろうとしている。まだまだ疑いの目は、あるかもしれない。しかし、それらは、いずれ反駁されていくはずだ。中盤で喜々としてプレーする彼の姿が、少しだけ先の未来を予感させてくれたからだ。
サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web