女性で外国人…辞書片手にライセンス講習 Jリーグ佐伯理事の“壮絶”な指導者キャリア
女子チーム入団で語学力向上 辞書を片手にチームメートを追い「さっき私に言った言葉、何?」
まだスペイン語も話せないなか、電話で伝えるのは難しく、協会側から「今日の午後、来られる?」と聞かれた。地図で協会を探し、地下鉄を乗り継いで到着すると、担当者はマドリード市の地図を広げて「あなたの住んでいるところはどこ?」と聞いてきた。佐伯理事が指さすと「じゃあ、あなたの家から通える女子チームはココとココと……」と4つほど選択肢を提示され、バスで通えそうなチームに行きたいと伝えた。すると、その場で監督に電話をしてくれて、「今日の夜から練習に来い」と加入が決まったという。
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女子チームに入ると、まずは言葉の壁にぶち当たった。地元の女子20人ほどに囲まれて、学校で学ぶスペイン語とは全然違う。佐伯理事は親と住んでいたことから、留学生と違ってなかなか現地の言葉に触れることができていなかったが、チームでは生の空気を味わえた。
「本当のスペインの中に入ったら、言葉は全然分からなかった。でもそれが逆に良くて。練習が終わってから、みんながシャワーを浴びている時に私は辞書を片手に、チームメートを追いかけながら、『さっき私に言った言葉、何?』と聞いて。チームメートが指をさしてくれて、『そういう意味か』と、ほぼリアルタイムで解決できた。それが当たり前になってロッカールームに入ったらユリコの辞書を指させ、みたいになっていた。中高諦めていたサッカーをプレーヤーとしてもう一度できる喜びを与えてもらって、初めて女の子のチームでやらせてもらった。その時、私はヒスパニック文学を学んでいたけど、何をしていたか分からないから勉強していた。でも、鳥肌が立つぐらい好きなことはフットボールだと気付いて。それなら、サッカーで生計を立てていきたいと思った」
そして、考えたのが指導者か審判。だが、スペインでの審判という職業は「恐ろしい」と思っていたため、指導者一択となった。
「フットボールを科学的に分析して学べることは魅力的に思えた」
まだ19歳だったが、自身のキャリアを指導者に決め、ライセンス取得のためにスクールへ通うことにした。もちろん、スペイン語。まだ海を渡って1年半ほどの語学力で、ハードルは高かった。それでも、授業をMDに録音して、聞き取れるだけの単語をノートに書き、西和辞書と和西辞書を持って最前列で講習を受けた。最年少で外国人、そして女性。その姿を見た周囲は温かく見守り、1枚多くノートのコピーを取ってきて渡してくれたり、テスト範囲を教えてくれたりして助けてくれた。
「周りの生徒はスペイン人で全員男性。レアルとかアトレティコとかに所属して、テレビで活躍しているような人が一緒に生徒として授業を受けている。そういう人たちとはフットボールの知識量も違うし、語学のハンデもあるなかでやっぱりハードルは高かった。でも、そういう人たちが言葉も分からない最年少の、しかも女の子1人、外国人でフットボール後進国から来ていて……というなかで、温かく見守ってくれて指導者として育てられた。今、一番テスト前に私を助けてくれた人は、シント=トロイデンの助監督をやっている。あとはオーストラリアのメルボルン・ビクトリーの監督をやっていたり。同期の人たちが世界中に散らばって、第一線で指導者として活躍している」