ネイマールの「中国人」発言騒動は情けない限り 差別根絶を訴えるFIFAはなぜ動かない?

残念ながらフィールド上では罵詈雑言が乱れ飛んでいる

 ネイマールは酒井と何度も対戦しているから、日本人だということは知っているはずだ。それを、なぜわざと「中国人」と言ったのかは分からない。だが、「中国人」を日本人である酒井を貶める意味で使っているのだとしたら、差別というより中国人への侮蔑になる。言われた酒井も、いまいちピンとこなかったのではないか。

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 ネイマールは先に差別的暴言を浴びせられて頭にきていたらしいが、それで差別し返すというなら天に唾するようなものだ。もしそうだとしたら、どこからどう見ても弁解の余地がなく、あれだけの名手が情けないという感想しか出てこない。だが、たぶん子供じみた悪口なのだろう。それならそれで、いっそう情けない気もするが。

 酒井はこの件でコメントを出している。一読した感じでは「相手にしていない」という印象だった。そりゃ、そうだろう。これで怒ったら酒井も中国人をバカにしていると思われかねない。たぶん、この手の“口撃”にも慣れていると思う。

 残念ながら、フィールド上では罵詈雑言が乱れ飛んでいて、差別的な言葉も混ざっている。実はそんなに悪気もない。ただ、エウゼビオは尊敬していたアルフレッド・ディ・ステファノに差別発言をされた時は「悲しかった」と述懐していたので、言われたほうはもちろん傷つく。近年はFIFA(国際サッカー連盟)も差別には厳しい態度を打ち出していて、世の中も変わってきたので、かつてのような状態ではないだろう。

 ネイマールの今回の暴言も、彼が子供の頃には普通にフィールドに溢れていたのではないかと思う。ただ、昔はそうだったでは許されないのだ。リーグがこの件を見逃し、あれだけ差別根絶を訴えていたFIFAからなんのアクションもないのは、どういうことなのかと思ってしまう。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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