“規格外選手”使用上の注意点 メッシ残留のバルサ、“空気を読まない”監督は危険な賭けか
ラングニック招聘ではなく、38歳FWイブラヒモビッチを選んだミラン
ズラタン・イブラヒモビッチが新型コロナウイルスに感染したらしい。最初に感染が流行した時には「俺のところに来い」みたいなことを言っていたが、本当に来てしまったわけだ。
「ウイルスは俺に挑戦する気らしいが、それは良いアイデアではないな」
検査で陽性反応が出ても相変わらずのズラタン節。特に症状も出ていないようである。セリエAの開幕戦で2ゴール、昨季に続く圧巻のパフォーマンスを見せたばかりだった。ズラタンが一時離脱するACミランにとっては痛手だろう。
しばらく不振が続いていたミランが昨季復活の兆しを見せたのは、イブラヒモビッチが冬に加入してからだった。今季のボローニャとの開幕戦、前半12分に日本代表DF冨安健洋を制してシュートを放ったシーンからすでに強烈。ペナルティーエリア内右側でパスを受けると、立ち足の後ろを通す切り返しで持ち替え、左足でファーサイドを狙った。シュートはわずかに外れたが、この時イブラヒモビッチは右手で冨安の肩を押さえて近寄らせなかった。その腕力だけでも格の違いを感じさせた。
冨安にとっては、またとない経験だと思う。直接マッチアップする機会はそれほどなかったが、規格外の選手とはどういうものかを体感できたのではないか。
イブラヒモビッチは前半35分にヘディングシュートで先制点を叩き出す。2人のDFの間から高く跳び上がったのだが、打点の高さが違いすぎて勝負にならなかった。後半6分にはPKから2点目。同18分にもGKをかわしてシュートを打ったが枠を外した決定機があり、これを入れていればハットトリックだった。
38歳になったが、存在感は依然として圧倒的だ。ミランは当面、イブラヒモビッチとともに歩んでいくことに決めている。一時はラルフ・ラングニックの監督就任が確実視されていたが、ズラタンとラングニックは両立しない。ラングニックは結局ミランには行かなかった。
ラングニックのサッカーでは走力が要求される。FWも献身的に攻守に動き続けなければならず、それをイブラヒモビッチがやるとは思えない。いわば古いタイプのストライカーなので、ラングニックの戦術とは水と油なのだ。ベンチに座らせるわけにもいかないだろうから、イブラヒモビッチかラングニックかという選択をするしかない。そしてミランは前者を取ったわけだ。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。