「それが本当のプロの世界」 アルゼンチンに渡った日本人が感じた強豪国の“奥深さ”
選手も指導者も、与えられた環境で逞しく仕事をするのが本当のプロ
ある時、アルゼンチン代表戦のハーフタイムに、ラベッシは当時のアレハンドロ・サベージャ監督に水をかけてしまい、その様子はテレビにも流れた。ラベッシが指揮官に腹を立てて暴挙に出たのは明白だった。当然番組の放映中に両者はコメントを求められた。
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ラベッシは平然と言い放った。
「監督が熱くなっていたんで冷やしてやったんだ」
サベージャ監督も取り繕う。
「オレも熱くなっていたからな。あれもコミュニケーションの一つだ」
再び亘が解説する。
「名将も決していつも偉そうにしているわけじゃないし、好きな選手とばかり仕事をしているわけでもないんです。選手も指導者も、逞しく与えられた環境で仕事をしている。それが本当のプロの世界です」
それがアルゼンチンの強さの秘訣だと、亘は確信している。(文中敬称略)
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。