「それが本当のプロの世界」 アルゼンチンに渡った日本人が感じた強豪国の“奥深さ”
ボカ時代のテベスを見て、後のスーパースターになるとは想像できなかった
亘は下部リーグの劣悪環境を耐え抜き、スーパースターへと上り詰めていった選手を何人も見てきた。
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「ボカ時代の(カルロス・)テベスは、アベル・バルボ(セリエAのローマで大活躍したストライカー)、高原直泰、それに(フアン・ロマン・)リケルメや(マルティン・)パレルモたちのプレーを、体育座りをしながら『あいつら、上手いなあ……』と眺めていた選手です。16~17歳の頃の彼から、後のスーパースターを想像していた人はいなかったと思います。ボカの次はコリンチャンスへ移籍。苦労をしましたが、人気を得てプレミアリーグのウェストハムへ進出。サッカーそのものや考え方の違いにも順応して、マンチェスター・ユナイテッド、ユベントスと次々にレベルをクリアして、最終的に勝ち取ったタイトルはリケルメやパレルモを超えました」
破天荒なクラッキに映るエセキエル・ラベッシにも、紆余曲折があった。
「18歳でボカから3部のエストゥディアンテス・デ・ブエノスアイレスへ貸し出され、そこで成功してジェノア(セリエA)が獲得しますが、今度はサン・ロレンソへ貸し出し。こうした道のりを経てナポリ、パリ・サンジェルマンで中心的な選手へと成長していきました。彼も決して順風満帆ではなく、苦悩しながら適応し、成長してスターになったアルゼンチンらしい選手です」
亘は続けた。
「近年アルゼンチンの選手たちは、(リオネル・)メッシや(セルヒオ・)アグエロのおかげで上手いと思われていますが、実は細かいミスも多いんです。しかしそれを逆に利用するリカバー力も高い。ピンチに遭遇してもポジティブに考えてチャンスに変えていく力を備えています。またサッカーにはすべてを賭けて真剣に向き合っているので、職業として世界に出ていく覚悟が違いますね」
一方で、そんな選手たちと対峙する監督にも覚悟が要る。前述のラベッシは問題児として知られていた。
「彼のおかげでナポリやパリ・サンジェルマンの練習を何度も見せてもらったんですが、あのカルロ・アンチェロッティ監督でさえ、相当に気を遣っているな、と思って見ていました」(亘)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。