今季J1はウイングの“当たり年” 川崎の三笘、C大阪の坂元…日本人特有の技巧と俊敏さ
【識者コラム】驚異の決定力を誇る三笘、川崎のウイングの質と量は他の追随を許さない
三笘薫の評価がうなぎ上りだ。14試合に出場して8ゴールは、川崎フロンターレでは小林悠(9ゴール)に次ぐ。J1全体ではチームメートのレアンドロ・ダミアンらと並ぶ6位タイだが、プレー時間がかなり違う。先発は3試合にすぎず、90分フル出場もない。長くて70分前後、短い時は30分程度である。
シュート19本で8ゴール、成功率は約42%という高率。ドリブル突破の確率も高く、2、3回仕掛ければ1点取る。左サイドからのカットイン・シュートが得意で、シュートはファーサイド、ニアサイド、DFの足の間と、3つのコースを瞬時に蹴り分けている。ドリブルもシュートも極めて防ぎにくい。
川崎には同年代の旗手怜央がいて、長谷川竜也、齋藤学、そして大御所の家長昭博もいる。ストライカーの小林や宮代大聖もサイドで起用されることもあるので、ウイングプレーヤーの質と量は他の追随を許さない。
今季のJ1リーグは、ウイングの当たり年なのかもしれない。
セレッソ大阪の右サイド、坂元達裕の鋭い切り返しも注目を集めている。左足で切り返して縦へ持ち出すフェイントのキレが抜群で、何度もDFを置き去りにしてきた。左足で切り返した時にボールを懐に抱え込むような場所に置き、切り返した後に左足で縦に運んで振り切る。瞬発力のなせる業なのだろうが、体の使い方も合理的だ。縦へのダッシュ力を生んでいるのが、おそらく右足なのだ。
体育の授業で、たぶん誰でも一度は経験したはずの反復横跳びを想起してもらうと分かりやすい。左へ動いて、そこから右へ移動する。その時、ウエイトがかかるのは左足だ。ただし、左足で右方向へのパワーを生み出そうとすると負担が大きすぎて、かえって遅くなる。左足のウエイトは素早く右足に移し、右足で地面を蹴ったほうがパワーは出る。坂元は左足の切り返しの後、もう一度左足でタッチしているので、縦への推進力を生み出しているのは右足のはずである。そして、そのためにボールを左足で触れる場所に残しているのだと思う。
名古屋グランパスのマテウスも強烈だ。昨季は期限付き移籍した横浜F・マリノスの優勝に貢献した。爆発的なスピードと推進力が特徴で、右に置くより左サイドで縦に走らせたほうが持ち味は出る。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。