コロナ禍でなければ間違いなく“大ブーイング” 迫力なきFC東京、ホームのみで今季4敗目
【識者コラム】勝ち点差以上に歴然、川崎とFC東京のホームゲームに対するアプローチの違い
現在J1リーグ3位で辛うじて優勝圏内に留まるFC東京がシーズン4敗目を喫し、首位・川崎フロンターレの背中がまた遠のいた。
しかも勝ち点差以上に歴然としたのが、川崎とのホームゲームに対するアプローチの相違だ。9月16日の第24節で大分トリニータをホームに迎えたFC東京は、残り15分からの10分間で大分に4度の決定機を作られ、そのうち2度が失点となり致命傷となった。1-3と2点差をつけられた終盤は「4トップ気味に変えて」(FC東京・長谷川健太監督)押し込み1点は返したが、そのまま逃げ切られた。
ここまでFC東京の敗戦(4敗)はすべてホームゲームで、川崎以外の対戦相手は現状の順位表では下位にいる。堅守速攻型のチームなので、相手を引き寄せたほうがカウンターという武器の効率が増すのは分かるが、それにしても川崎とのボール奪取のアプローチがあまりに対照的だ。
同じ大分に対し、川崎は前線からの厳しいプレスで相手を自陣ゴール前に釘づけにして、ミドルゾーンまでも進めない状態に押し込み危なげない勝利を収めた。大分は速いプレッシャーで前にパスコースを探せず、後ろに逃げ場所を探すばかりになり、しかもミスを繰り返すことになった。簡単に言えば、川崎は大分にまったくサッカーをさせなかった。
だがFC東京は、前線では深追いせず早めの帰陣を心がけた。例えば大分はゴールキックになると、GKムン・キョンゴンの左右に鈴木義宜と島川俊郎が立ち、どちらかに繋ぐことからスタートする。FC東京が本気でここからボールを奪取する姿勢はなく、逆に自陣でブロックを形成しているから、大分のボランチ前田凌佑は下りてくれば余裕を持って前を向くことができて、攻撃の起点にもなれていた。もちろん川崎戦とはメンバーも変わっているわけだが、大分のGKも含めた後方5~6人の選手たちは、ほぼプレッシャーなしにボールを繋ぎ続け、結局前半は何事も起こらずに終わった。
Jリーグでは良くも悪くも、ホームとアウェーで極端に戦い方を変えるチームは少ない。だが欧州では、ホームチームがこれほど攻撃に出ていかない試合に遭遇することはほぼ皆無だ。現在はコロナ禍の事情があり禁止されているわけだが、日本でなければ間違いなく前半から大きなブーイングに包まれる。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。