あまりに長すぎた春 女子サッカー界を世界一に導いたなでしこ佐々木監督の功罪とは

リオ最終五輪で期待の若手4人斬りも、ベテランは不発

 また、佐々木監督自身が作り上げたチームを、自ら世代交代させなければいけないという命題も難しいものであったのは事実だ。クラブチームを見ても、長期政権には同様の問題が付きまとう。それを成し遂げたと言えるのは、マンチェスター・ユナイテッドを率いたアレックス・ファーガソン監督など、ごく限られた事例でしかない。まして、中心選手を移籍という形で入れ替えられるクラブチームではなく、自国の選手をセレクトする形でしか入れ替えられない代表チームにはさらなる困難があったのは事実だろう。

  監督が変われば、選手の評価ポイントも変化する。佐々木監督が高く評価する選手を、別の監督が同じように評価するかは分からない。さらに、監督が変われば戦術も多少なりとも変化していく。多くのチームはそうやって自然に選手構成が変化していくが、セレクターと基本的な戦術が変わらないことが選手構成の変化を難しくした。同時に、世界チャンピオンの称号を得ただけに、結果を度外視してチームをリセットする難しさもあった。

 新しい血を導入したいが、現有戦力のチームが完成されている。そうした相反する要素が佐々木なでしこの第二期には表面化していた。世界トップレベルの戦いを経験してたくましさと団結力を増した選手たちの集団ができあがっていただけに、新戦力を融合させるのがますます難しくなっていった。昨年の女子ワールドカップ・カナダ大会では準決勝まで全て1点差で勝利して決勝まで進んだ。ほぼ同じメンバーで戦い続けたことが勝負強さの根幹にもなっていたのも事実だ。

 昨年の東アジアカップでは多くの新戦力が試されたが、結果を出すことができなかった。11月のオランダ遠征では、「核になる選手たちと新しい選手を融合させたい」としながらも、スタメンは経験のあるメンバーを多く起用する構成に戻した上で敗れた。その内容も、決して相手を圧倒していたわけではなく力負けの感があった。途中出場させた新戦力の評価は「まだまだ持っているものを自信を持って出せていない。体の弱さもある」というものだった。新戦力のレベルアップに手応えを感じられず、頼りにしていたメンバーにもミスが出て敗れたゲームだっただけに、実際は警鐘は強く鳴っていた。

 そして迎えたこのリオ五輪アジア最終予選。メンバー発表時に佐々木監督は「ベテランが出場権をしっかり勝ち取って」と主張し、猶本、MF増矢理花、杉田亜未、DF村松智子という若手4人を最終段階で外した。ベテラン選手中心の布陣で戦う決断を下した。だが、期待を寄せたベテランは結果を出せず、キンチョウスタジアムのピッチに閉塞感を漂わせた。佐々木なでしこはアジアを突破できずに敗退という結果に終わった。「勝てなかったのは僕の責任」と、敗戦の責任を一身に背負いこんだが、8年間という長きにわたって大きな変化がなかったチームは研究され尽くしていた。

 

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