内田篤人に魅了されっぱなしだった 何度もハッとさせられたシャルケ時代の“理知的な言葉”
【ドイツ発コラム】シャルケ時代の取材記録から振り返る、内田篤人の“人間力”
現役を引退した内田篤人はピッチ上でのプレーの素晴らしさだけではなく、理知的で本質を捉えた発言が魅力的だった。僕も何度もハッとさせられたものだ。
過去のドイツでの取材記録を丁寧に読み返してみたのだが、その中で印象的な言葉を見つけた。
あれは2011年4月、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)でインテルと対戦し、ベスト4進出を決めた後のミックスゾーンだ。日本人初となるCL4強を喜びながら、「アジアのレベルが上がってきていると思うか」という話をしている時に、内田がこんなことを話し出した。
「慣れでしょ、たぶん、見る側の。変な話、皆さんの記事が『(日本人は)もっとやれるんだ!』っていう記事にしてくれないと。日本は少し……縮こまったまんまなのでね。お願いだから、日本はやれるというね。記者の影響力はすごく強いから。そういうのに乗せられて選手もどんどん出て、『ああ、やれるんじゃん』って思ってくれば日本(のレベル)も上がるのに。『海外はレベル高いから、行っても無理だろう』って書いたら、選手もそれは行けなくなっちゃうから」
今と当時の置かれた状況はもちろん異なるが、大事な指摘ではないだろうか。日本サッカーや日本人選手の何もかもを絶賛したり、欧州でプレーすることだけを称賛するのは違う。これまで育ててくれたクラブへの恩義はしっかりとしなければならないし、「欧州に行けば誰でも急成長できる」という方程式があるわけでもない。そこでプレーするための準備が整っていないと、行っても「いい経験をした」と言って帰ってくるだけになってしまう。建設的な批判はなくてはならない。
でも必要以上に怯えたり、不安がったりするのもまた違う。日本人ができないんじゃない。まだそこでの経験がないだけなんだと、内田は伝えてくれた。だから、そこでも活躍ができる日本人として、勇敢に次へのステップを踏んでいくことが大切なのではないだろうか。欧州最高峰の舞台で日本人初となるベスト4へ進出した選手は、その背中で、その言葉で、その生き方で後進に道を示し続けてくれた。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。