バイエルンの“組み立て”は現代の戦術的傾向を象徴 前線への配球はまるで「アメフト」
【識者コラム】際立つバイエルンの強さ、昨季王者リバプールと共通するプレースタイル
ベスト8から一発勝負となった今季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝は、バイエルン・ミュンヘンとパリ・サンジェルマン(PSG)の対戦となった。この原稿を書いている時点で決勝の結果はまだ分かっていないが、どちらが勝ってもチャンピオンに相応しいと思う。
バルセロナを衝撃的な8-2というスコアで大破し、リヨンも3-0で一蹴したバイエルンの強さは際立っていた。昨季のチャンピオン、リバプールとプレースタイルが似ていて、その意味では今風のチームである。
バイエルンとリバプールの共通点は、相手のディフェンスラインの裏を突くロングパスの多用と攻守がシームレス化したハイプレスだ。
バイエルンがリバプールと違うのは、ボールポゼッションを重視しているところだが、結局は「蹴る」ためのポゼッションなので大差はないとも言える。ビルドアップでは4バックとチアゴ・アルカンタラの5人が中心。残りのフィールドプレーヤー5人は前線近くにポジションを取り、あまりビルドアップには関与しない。チアゴ、ヨシュア・キミッヒ、ダビド・アラバとパスの上手い選手が3人いるので、どこからでも機を逃さずラインの裏へのロングパスを供給できる。
バイエルンの組み立てはアメリカンフットボールみたいだ。アメフトのクォーターバックからのパス。後方から一気に前線へ配球する。
ハイプレスに関しては、攻守の区切りのない意識の持ち方が徹底されている。個々の選手のスピード、圧の強さもバイエルンの強みだが、攻め方自体がすでにハイプレス用になっているのは見逃せないポイントだろう。
ビルドアップでは、ほぼロストしない安定感がある。そして、そこから前線へロングパスを使うので、ボールを失ってもほとんどの選手はボールの後方にいる。つまり守備の人数が多く、層が厚い。対戦相手にとってバイエルンの分厚いハイプレスを外すのは容易ではない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。