【OVER30 プロで生き抜く男たち】川口能活 無垢な魂
変わらぬ純粋さ
「個人的には長くやっている選手ってインテリジェンスがあるというより、逆にあまり考えてないと思うんだよね」
川口能活はしばらく考えた後、そうポツリと漏らした。
「賢いやつほど、先が分かっちゃう。だから見切りつけちゃうのかなって。シュン(中村俊輔)も(中澤)佑二もそうだけど、賢さより純粋さが勝っているんだと思う」
純粋さ。プロ入りして20年が経過しても、そこだけは昔と何も変わっていない。今も自信と不安とが隣り合わせ。だから、新聞記事に39歳のGKと書いてあっても、自覚はない。
一昨年の開幕前は右アキレス腱を断裂。本人は「ああ、これはヤバいかも」と瞬間的に選手生命の危機を感じたらしいが、周辺の証言によると、スタッフに抱えられながら「復帰できるのはいつ?」と問いかけていたという。その無意識のつぶやきは、まさに執念の成せる業だ。
とはいえ、誰にでも引き際は訪れる。日本人最多のワールドカップ4大会を経験した男も例外ではない。だが、そこでも譲れない点がある。
「ベンチに座って引退するんじゃなく、最後はピッチに立ち続けて退くっていう映像が昔から頭の中にあるんですよ」
だから、昨季のようなベンチの日々だけは許せない。ピッチに立つことを、その先にはもう一度日の丸をと、常に考えている。その瞳には依然として熱い炎が宿っている。
【了】
佐藤岳●文 text by Gaku Sato
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