【OVER30 プロで生き抜く男たち】柳沢敦 永遠の課題と向き合うことで
「カズさんに比べれば若造でしょ」
最初の異変は日本代表での試合で感じたという。
「体が重いとかそういうことじゃなくて、けっこう早めに動きだしたのに、後ろから追い抜かれたんですよね。それでボールを取られて」
柳沢敦が最後に日の丸を背負ったのは2006年のドイツワールドカップ。ということは、少なくとも8年以上前には肉体の変化を感じ始めていたことになる。
だが、その後もピッチに立ち続けてきた。京都時代にはゼロ円提示も経験しながら、新天地の仙台で再起。「昔のイメージを描けなくなってきてはいるけど、今の体やスピードで描けるものはある」と身体的な衰えを、ポジショニングや動き出しのタイミング、味方との関係性や相手との駆け引きなどを工夫することにより補ってきた。
「良い状況判断と質の良い動きが、僕の中での永遠のテーマ」
昔から貫いてきたその信念がプレーの根幹にあるからこそ、進化にも際限がない。
これまで悔しい思いはたくさんしてきたが、後悔はないという。
「サッカーに対してだけは、自分は誠実にやってきたと思ってるから。サッカーに対してだけは。だから、やり残したっていう気持ちはない」
尊敬する三浦知良も47歳で現役。「カズさんに比べれば若造でしょ」と笑う男は、いまだ飽くなき向上心に突き動かされている。
【了】
佐藤岳●文 text by Gaku Sato
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