8連勝の川崎、「J1リーグ独走」は必然か 桁違いのチーム内競争…王座奪回に死角なし
【識者コラム】大分戦で見せた歴然とした差、負傷の長谷川に代わり三笘が躍動
新型コロナウィルスの感染は、ごまかしの効かないシーズンを生み出した。Jリーグの全チームが一律に疲労を溜め、明らかに例年より故障者が多い。そこで5人交代制が導入され、降格がないシーズンは、必然的に層の厚さと攻撃力や支配力が試されることになった。
その点で川崎フロンターレの独走は必然で、とりわけ第9節の大分トリニータ戦では残酷なまでに両チームの落差を浮き彫りにした。大分は7連勝中の難敵に対し「ボールを持つことにチャレンジした」(片野坂知宏監督)という。だがGKを交えた3枚のDFのパス回しから一向に脱却できず、ようやくサイドに起点を作っても前に仕掛ける勇気が出せない状況で、端的に個々の技術の精度と判断力の速さ、的確さが歴然とした。
例えば、左のワイドに張り出す香川勇気にボールが渡った瞬間に、片野坂監督は「ターン、ターン」と強調するのだが、簡単にボールを戻してしまう。ボランチの長谷川雄志は「全体の距離間が開き過ぎて、ターンしても相手のプレッシャーも速く前に出せない」と語っており、どうしても個々が安全な後方でのパスコース確保に傾く。「もっと横の揺さぶりを速くしないと」と長谷川も反省の弁を残したように、すでにボランチから後ろのパス回しで手が詰まり焦りが生じており、そんな状況から川崎のレアンドロ・ダミアンへのプレゼントパスが渡ってしまった。「見ていると、もっとやれそうな気がするのだが、選手は予想以上にプレッシャーを感じていたようだ」と指揮官も振り返り「力の差の大きさは非常に感じた」と深いショックを覚えた様子だった。
川崎にも故障者がいないわけではない。チームの象徴とも言える中村憲剛を欠き、絶好調なシーズンインをしていた長谷川竜也が離脱するなど決して被害は小さくはない。しかしそれでも大分戦では、「本人に聞けば、きっとやりたいと言う」状態の家長昭博や山根視来を休ませ、それどころか長谷川のポジションで出場した三笘薫は、サイドでの仕掛けに止まらず、ポジションチェンジをして深い位置に下がれば視野も広くパサーとしての有能ぶりも発揮。まだ代表入りや海外進出も睨める高い資質を見せつけた。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。