大迫敬介の“攻撃的守備”が復活 スタメン落ちの3試合で刻んだ「GK王国」広島の伝統
横浜FC戦の最初の飛び出しで確信した、GK大迫の復活
その後のトレーニングでも、彼はいつもどおり。トレーニングに集中し、居残ってたくさんのシュートを受ける。林がルーキーの頃からずっと続けてきた猛練習の蓄積を、大迫もまた引き継いだ。汗と泥にまみれ、そのうえで彼らしい笑顔も忘れない。
林のパフォーマンスは、その後も決して悪くなかった。しかし、オウンゴールやビルドアップのミス、セットプレーでのマークミスなどの不運が続き、セレッソ大阪戦、ガンバ大阪戦と連敗。4試合勝利なしとチームに暗雲が立ち込める。
第8節の横浜FC戦、城福監督はリズムを変えるべく、メンバーを大幅に入れ替えた。1トップにドウグラス・ヴィエイラ、シャドーに東俊希、左ワイドに藤井智也。そしてGKには大迫敬介。必勝の想いをかけた布陣である。
「敬介が試合に出るのが当たり前のような周囲の雰囲気の中で、林がどう過ごしていたか。彼がどんな努力をして、どんな準備をして、練習場でどんなプレーをし続けてきたか。それを敬介はずっと見ていたわけです。彼にとって林卓人という素晴らしい教科書がいる。ポジションを取り戻すためには練習場でやるしかないことを、卓人から学び、愚直に、ひたむきにやってくれた。絶対にやってくれると信じて、送り出しました」
開始早々、おっと感じるシーンがあった。深い位置から一気のロングパスで横浜FCの皆川佑介が裏をとったシーン。いや、正確には裏をとりかけた場面と言ったほうがいい。パスが出たその瞬間、大迫は見事なスタートを切ってペナルティーエリア外に飛び出し、クリアでチームを救った。何げないシーンに見えるが、素晴らしいファインプレー。ただ、記者はリーグ中断中のトレーニングマッチのファジアーノ岡山戦で同じようなシーンで飛び出しを躊躇し、失点したことを知っている。
大迫の魅力は、なんといっても積極性にある。落ち着いてピッチに両足で常に立つ広島GKの伝統を受け継ぎながらも、アグレッシブで攻撃的な守備を仕掛け、ピンチを未然に防ぐことが持ち味だ。だが今季の大迫は、その魅力を十分に発揮できていたとは言えない。ハイボールをキャッチに行くシーンが減り、ポジションも低かった。岡山戦でその傾向が見えていたのだが、修正できていなかったことが大分戦のミスにつながったと言っていい。同点ゴールのシーン、大迫のポジションがあと数メートル高ければ、ハイクロスは余裕を持ってキャッチできていたのだ。
だからこそ、最初の飛び出しで感じた。
大迫敬介が戻ってきた、と。