大迫敬介の“攻撃的守備”が復活 スタメン落ちの3試合で刻んだ「GK王国」広島の伝統
【J番記者コラム】大分戦でミスから2失点、城福監督が先発落ちに込めたメッセージ
ウワーーーーッ。
漫画とか映画で見るような咆哮をあげながら、大迫敬介は自分を責めた。責め続けた。
J1リーグ第3節、対大分トリニータ戦。後半40分まで全くチャンスを与えなかった大分に対して、立て続けに失点し逆転負け。その2点とも、明白な大迫自身のミスから生まれた。
もちろん、彼だけの責任ではない。決定機を得点できなかった攻撃陣にも、クロスを簡単に入れさせた守備陣にも、同点ゴールを取られた後に落ち着かせることができなかったチーム全体にも、課題は残った。しかし、同点弾を喫した時のクロス対応も、逆転弾につながったスローのミスも、大迫のレベルからすれば考えがたい。責任を免れることはできない。
城福浩監督は決断した。次のサガン鳥栖戦、ゴールマウスの前に立ったのは林卓人。言うまでもなく、今のJリーグでは突出した実績を持つベテランだ。一昨年はPKストップ2本をはじめ多くのビッグセーブでチームを助け続け、リーグ戦2位の原動力となった。もし、前半戦に独走を記録したままの勢いを保って優勝すれば、パトリック(現ガンバ大阪)とともにMVPの有力候補となっていたはず。昨年は腰痛もあり、コンディションが整わなかったが、今年は違う。「コンディションは問題ない」と自身が言い切るほどの状態。トレーニングでも見事なパフォーマンスを見せており、準備は整っていた。
「ミスしたから大迫を外すのではなく、林卓人が素晴らしい状態だから起用するんです」
城福監督は正直な人だ。想いを隠そうとしても態度や口調で分かる。就任3年目、毎日に近いペースで彼と言葉をかわしてきた経験上、言葉に嘘はない。だが一方で、彼が言わなかった想いも透けて見えた。
「敬介、ここからだぞ。俺は見ているぞ」
指揮官の言葉は、林の真摯さや能力の高さを言っただけではない。たとえ先発から外れようとも、トレーニングを見て準備のレベルを常にチェックしている事実を、若者に突き付けたのだ。ここから巻き返すのは、すべて大迫敬介の努力次第――。言葉にしなかったメッセージを、記者は感じた。
アウェーの鳥栖戦、林は素晴らしい集中力から二つの被決定機を未然に防いで零封。状態の良さをプレーで示した。
その翌日、広島に残った選手を中心に行われた広島ユースとのトレーニングマッチを、大迫は袖からずっと見つめる。ストレッチや筋力トレーニングを続けながら、増田卓也、廣永遼太郎といったサブ組のGKたちの奮戦を目に焼き付けていた。