ジダン“監督”の才能とは? “スター軍団”レアルを巧みに統率…「よく分からない」偉大さ
【識者コラム】リーガを制覇し監督として11個目のトロフィー獲得
レアル・マドリードのリーガ・エスパニョーラ優勝が決まった。3年ぶり34回目、ジネディーヌ・ジダン監督は11個目のトロフィーである。ミゲル・ムニョス監督が8年で獲得した記録を、約4年で塗り替えている。
「監督の値打ちは結果です。昼寝していて勝てるなら、昼寝するのが正しい」
日本代表も率いた加茂周氏が、かつてそう言っていったことがある。監督の値打ちが「結果」にあるのもそうだろうが、結果でしか計れないものとも言える。
監督の「作品」はチームだ。チームが良ければ監督の腕も良いのだろうと想像できる。日頃のトレーニングから観察すれば、さらにどうしてそういうチームなのかもある程度は推察も可能だ。ただ、取材者もロッカールームの中までは入れないし、練習メニューや戦術がすべてでもない。結局のところ、監督の値打ちは結果でしか計れないというのが実情なのだ。
「結果」から見るかぎり、ジダンはすでに偉大な監督だ。
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)3連覇は例がなく、国内リーグもこれで二度優勝。シーズンの最初から指揮を執った3シーズンで優勝2回という高確率である。今季も最初はどうなることかと思われたが、中断を経て再開するや怒濤の10連勝でバルセロナを振り切っている。
ジダンの作品であるチームのプレーぶりも素晴らしい。過密日程を乗り切ったのは選手層の厚さによるが、誰がプレーしてもチームとしての機能性と一体感を保てていた。バルセロナがリオネル・メッシというスーパースターを生かすと同時に、メッシの守備負担を軽減するべく他の選手たちが補完する関係にあったのとは対照的に、レアルにはメッシほどのスーパースターはいないが、11人のスターがそれぞれのポジションで攻守を平等に請け負っていた。特に中断後は、目に見えて守備が整備されていた。
ただ、クリスティアーノ・ロナウド(現ユベントス)という特別扱いのスーパースターがいた時のレアルでも勝っていて、ジダン監督は歪な編成を余儀なくされるケースでも実績を残している。スーパースターと共存できないタイプの監督ではない。
ジダンは選手時代のカリスマ性がよく取り上げられるが、選手としての名声が監督として役立つのは、せいぜい最初の数カ月だろう。選手の才能と監督の才能は全く別物と考えたほうがいい。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。