Jユースで理想的な“少数精鋭主義”が実現しない理由 高校との二重構造と「守られた環境」
欧州や南米のユースでは「実力に適したクラブへの移籍が当たり前」
日本では高校選手権の人気が突出し過ぎて、逆にクラブチームの運営が難しい。事実上、16歳以降はプロを養成するJアカデミーか高体連の二者択一になり、選手の流動性が消滅する。脱落した選手の受け皿がないから、欧州や南米のクラブのように随時選手の入れ替えが効かず、それが本来の少数精鋭主義を阻んでいる。
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「例えば小学生でバルセロナへ移籍した久保(建英)は、少人数のエリートの中でも、いつ日本へ帰れと言われても不思議ではない状況で毎日生き残りを賭けて戦ってきた。それに対し、私は三菱養和で5年間指導をしましたが、記憶する限り強豪校から移籍してきた選手は1人しかいませんでした。欧州や南米では、実力に適したクラブへの移籍が当たり前です。でも日本ではそういう選択をすると、どうしてもドロップアウトをしたような印象を持たれてしまいがちです」
裏返せば日本の現状では、特に高校年代で試合に絡めず充実感を得られない大量の実質的な脱落者を生み出してしまっている。
「本来選手の権利を考えれば、必要とされるチームへ移るのは当然のこと。まずはその発想が浸透し、1年ごとに選手の見直しができるシステムが理解されれば、少人数で厳しい競争を追求したいプロの組織としては理想に近づきます。ただそれには、まだ凄く時間がかかるでしょうね」
次回は記録破りの成功を収めたアルビレックス新潟シンガポールでの戦いを振り返る。(文中敬称略)
(第5回へ続く)
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。