Jユースで理想的な“少数精鋭主義”が実現しない理由 高校との二重構造と「守られた環境」
【高校、ユース、Jを率いた吉永一明の指導論|第4回】日本のユース年代にある「理詰め」と「理不尽」の極端な二重構造
アルビレックス新潟でアカデミーダイレクター兼U-18監督を務める吉永一明は、ユースチーム(U-18)のGKに尋ねてみた。
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「大学の体育会に入ると、GKが何人くらいいるか知っている?」
「……」
「1チーム(11人)以上いることもある。でもトップの試合に出られるのは1人だけだよ」
Jアカデミーの選手は、それを聞いて少なからず驚く。一方、大所帯の高体連で育った選手たちは、すでにそんな環境に慣れている。
吉永は語る。
「結局、高体連も大学も構造は同じです。アカデミーで少人数のエリートとして大事にされてきた選手たちは、外へ出て声もかけてもらえないような環境に面食らいます。強いメンタリティーを持ち、自分の考え方などを発信していければ良いですが、それができない選手は残念な結果に終わることが多い」
実際多くのJアカデミー出身選手たちが、高体連や大学の環境とのギャップに戸惑う。恵まれた環境で育ってきた選手たちは、進学を機に初めてそれが当たり前ではなかったことに気づく。もちろん高体連や大学もひと括りにはできないが、他の先進国に例を見ない「理詰め」と「理不尽」の極端な二重構造は、日本サッカーの長所と捉える声もあるが、それは明らかなアキレス腱だ。
しかし最近では、敢えてJクラブのジュニアユースから高体連に進む選手も目立つ。そのほうが選択肢が広がるという見方もあるし、やはり中学生たちにとって高校サッカー選手権は依然として魅力ある舞台なのだ。
「新潟県でも帝京長岡などの活躍があり、選手権は大きな注目を集めます。ただしそこに憧れる中学生には良いところしか見えていない。逆に私はアカデミーと高体連両方の指導経験があるので、長所と短所をはっきりと伝えることができます」
吉永は山梨学院で初めて100人を超える部員と向き合い、チームを同じ方向へとまとめていく難しさに直面した。ただし反面、大所帯ならではの競争力も否定はできなかった。
「適性人数に丁寧な指導を施していくのが最善だとは理解しています。しかし日本の場合は、プロクラブのアカデミーでも3年間は面倒を看るという流れがあり、親御さんもそうでなければ子供を預けてくれません。でもそんな守られた環境で、選手がどこまで必死にやり切るかというと難しいのは確かです。同じメンバーで長く続けていると、ある程度の序列が生まれ、閉塞状況に陥る可能性がある。そこは飛び級などを上手く利用して解決していくべきですが、トップで誰か怪我をしたらオレが出ていくくらいの気概を持ち、もっとガツガツやれる選手が増えてほしい。
一方、高体連はメンバーも多く、みんながインターハイや選手権で活躍してプロを狙いたいと考えている。ライバルが多いと、ある日突然スタメンから外されることもあり、怪我をしても簡単に痛いなどと口にできないなど緊張感があります。そこで生き残る逞しさは、やはり否定できない。すでに彼らには、大学へ進んだとしても、我慢してチャンスを掴んでいこうという心構えができています」
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。