香川を余剰戦力とした、マンチェスター・Uのパニック補強

 

「これが最後の会見だな」といって握手を求めてきた地元記者たち

 BBCの電子版は8月31日の午後4時53分(現地時間)に香川真司のドルトムント移籍を伝えたが、筆者は8月28日の時点で「本決まりだ」と実感させられていた。

 この日、午後3時からアンヘル・ディ・マリアの入団会見がオールド・トラッフォードで開かれたが、会見場の『ヨーロッパ・スウィート』に足を踏み入れた瞬間、顔見知りの地元記者が握手を求めてきた。「これが最後の会見だな」といって。

 デイリー・テレグラフのマーク・オグデンは、「シンジに2~3シリアスなオファーが届いていると聞いた。Aマドリードはかなり本気でシンジを欲しがっているらしい」と、ささやきかけるように話しかけてきた。

 地元紙マンチェスター・イブニング・ニュースのロブ・ドーソンは「シンジ本人がドルトムント移籍を希望していると聞いた」といってきた。移籍先を当てたという意味ではロブの勝ちだったが、それぞれが太いパイプをクラブ内に持っている腕利き記者だから、ふたりからこういう話を聞くと、すでにマンチェスターには香川の居場所はもうどこにもないという感じがした。

 しかし、今回の移籍の感想を率直にいわせてもらえば、本当に“急転直下だった”というしかない。

 ファン・ハールの3-4-1-2新フォーメーションになって、香川の適性ポジションがトップ下だけになった。そして完全にマタの控えという立ち位置がはっきりした。

 このことは前回のコラムで詳しく書いた。オランダ人名将がサンダーランド戦終了直後の会見で、ヤヌザイを香川に優先してボランチ起用した理由について、「アメリカで香川をあの位置で使ったが、私の望み、哲学にかなうプレーができなかった。それに香川は“10番”の選手。しかし10番の位置ではマタがプレーしている」と説明していた。

 出場機会を求めるなら、この状況で移籍という選択ももちろんあっただろう。しかしこの時点でも香川本人の意思はあくまで残留だったはずだ。ところがディ・マリアがやって来てしまった。

 チェルシーで出場機会を失っていたマタの3700万ポンド、65億円も高いと思ったが、今回のディ・マリアの移籍金は2011年トーレスの5000万ポンドを1000万ポンドも上回る英国史上最高額の5970万ポンドだという。

 確かに素晴らしい選手だ。昨季の欧州CLを制したRマドリードの中でも、最も価値のある働きをした選手かもしれない。しかし、1.5列目にロナウド、ロドリゲス、ベイルと並んだことで、今季のレアルで出場機会を失うのは明白だった。

 しかしそれでも、レアルで出番がなくなりそうだった選手に対しても、マタの時と同様、「マンチェスター・Uが買うんだから価値がある選手に決まっている」と誇示するかのように、日本円にすると100億を越える途方もない金額をレアルに支払った。

 けれどもディ・マリアがマンチェスター・Uの根本的な問題を解決する魔法の選手なのか? その答えはこのコラムに最後に記すとして、この100億円選手獲得が香川を退団に追い込んだことは間違いない。

 というのも、ファン・ハールはディ・マリアの加入で4-3-3への移行を考えたという情報があったからだ。

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