部活とユースを知る元J監督、異色の経歴で築いた指導哲学 「選手に失敗させる度量が必要」
育成年代の指導で最も大切なのは「選手たちの野心を後押しする情熱」
「アカデミーで結果を出してトップチームへ行きたいと野心を抱く指導者がいる。もちろん、それ自体は悪いことではない。しかし育成年代の指導で最も大切なのは、選手たちの野心を後押しする情熱です。もちろん、時には手を引っ張ってあげなければいけないこともありますが、黙って見守る我慢も必要です。失敗するのは嫌なものだけど、指導者には選手に失敗をさせてあげる度量が要る。失敗させた後で、どんな手当てをしてあげられるのか。そこは年齢を重ねてきた自分の実績として、伝えていかなければいけないところだと思います」
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プロリーグがエンターテインメントである以上、自分の発想を超えていく選手を生み出していきたいと考える。
「今までの指導を振り返り、セオリー通りで成長した選手もいますが、それで持ち味を消してしまった選手もいたかもしれない。こうでなければいけない、と選手の発想を止めてしまうのは大人です。コーチの指示を無視して成功してしまう選手がいるなら、それは認めて誉めてあげなければいけない。『そうだよね』と頷かせるのがいい選手。でも『そこなの!』と驚かせるような凄い選手を増やしたい。でないと永遠にストライカーや仕上げのパスを出すポジションは、外国から連れて来なければならなくなる。それじゃ面白くない」
チームに問題提起をする異端児が1人いると、それで周りの人間も変わっていく。
「実際にそんな光景を見た経験もある。例えば、昨年J2で得点王になったレオナルド(現・浦和レッズ)は、強烈なエゴを持ち、ここまで自己主張する日本人はいない。もし日本人なら浮いてしまったかもしれないし、友だちにはなりたくないタイプです(笑)。しかし逆にそのくらいじゃないと、あんなに点は取れません。それに対し新潟県民の特性は、ひた向きに真面目に頑張ること。スタッフミーティングでは『それならそういう子は他所から連れてこないとダメでしょう』という声も出ています」
昨年から新潟は、育成型クラブへと舵を切った。吉永の経験値は、重要な礎になるはずである。(文中敬称略)
(第2回へ続く)
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。