部活とユースを知る元J監督、異色の経歴で築いた指導哲学 「選手に失敗させる度量が必要」
【高校、ユース、Jを率いた吉永一明の指導論|第1回】昨季J2新潟を率い、今季からアカデミーダイレクターに就任
ドイツで頭角を現したユリアン・ナーゲルスマン(RBライプツィヒ)やドメニコ・テデスコ(スパルタク・モスクワ)らに象徴されるように、国際的に若い監督の活躍が顕著だ。才能豊かな指揮官たちは、理論武装して成熟した選手たちを巧みに操り、結果を導いてきた。だが同じ指導者でも、どうしても年輪が必要なポジションがある。どんなタイプの少年たちが、どういう足跡を辿り成長していくのか。本来育成部門に求められるのは、そこに寄り添って見つめてきた実体験の積み重ねだ。
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昨年途中からJ2リーグのアルビレックス新潟のトップチームを指揮してきた吉永一明は、今年からアカデミーダイレクター(U-18監督を兼務)に就任した。
吉永の指導歴は多岐に渡る。三菱養和を皮切りに、アビスパ福岡のアカデミー、清水エスパルスのサテライト監督やヘッドコーチ、さらにはサガン鳥栖での育成指導を経て、2009年度には山梨学院高校のヘッドコーチに就任。いきなり全国高校サッカー選手権制覇を成し遂げると、翌年から6年間同校の監督を務め、計7年間で白崎凌兵(鹿島アントラーズ)、前田大然(マリティモ)渡辺剛(FC東京)ら計14人のJリーガーを輩出した。その後はヴァンフォーレ甲府のコーチを経て、アルビレックス新潟シンガポールの監督に挑戦。シンガポールでは2年連続してリーグ、カップ、チャリティーシールドの三冠という同国史上初の金字塔を打ち立てた。
現在52歳、クラブスタッフの中では新監督のアルベルト・プッチ・オルトネダと並び最年長なのだという。
「今までいろんな場所で様々な経験をさせて頂き、その分たくさんの失敗もしてきました。それをみんなで共有し、若い人のアイデアも聞きながら、他のクラブの先を行く取り組みを発信していければと考えています」
最年長のアカデミーダイレクターは今、率先して掃除をしている。特に高体連では上級生が下級生に雑用を押しつける伝統が染みついていることが多いが、そこには「それは下級生ばかりの役割ではない」というメッセージが込められている。
「もちろん簡単には変わりません。でも大人が行動を起こすことで、それを見て何かを感じる選手もいるはずです」
怒鳴りつけて強要するのは簡単だ。しかしあくまで高校3年生までに養ってほしいのは「どこへ行っても自立して生き抜く力」なのだという。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。