36歳長谷部の熟練技に独識者も喝采 高次元の“心技体”…ブンデスで輝き続ける理由とは?
解説者も絶賛「『危ない!』という場面に必ず長谷部がいて的確に処理してしまう」
無観客試合の開催中はスタジアム取材ができないため、筆者も専らテレビ観戦しているのだが、毎回のように解説者が「またハセベだ。フランクフルトにとって『危ない!』という場面には、必ずハセベがいて的確に処理してしまう。どこにでも現れる選手だ」と絶賛している。
また、相手がボールを懐に収めた状況では、すぐに頭の中を切り替えて次の展開を読んだポジショニングを取る。一番に抑えなければいけない危険なパスコースを潰し、体の向きと相手への距離を遠すぎず、近すぎずに保ちながら、相手の選択肢を限定していく。そして最後の局面ですっと体を寄せてボールをカットする。その距離を詰める一連の動作はとても滑らか。ファンはそんな熟練の妙技に、喝采を送るのだ。
ガツガツとした当たりの激しさが特徴のブンデスリーガだが、だからこそ1対1の競り合いでは負けるつもりはない。
「最初の頃はとにかく『ヨーイドン!』で当たっていましたけど、30歳を超えたくらいから、ブンデスリーガの中で余裕を持ってやれるようになってきたかな」と以前語っていた長谷部にとって大事なのは、どのように勝機を見出すか、という点だ。
「行くところと行かないところを、自分の中で分けてやっている。そういう1対1の戦いで、フィジカル的に負けるようになったら、ブンデスでは厳しいかなと思っている。やっぱりブンデスリーガは1対1の戦いのリーグなので、その中でフィフティーフィフティーで当たったら勝ち目のない相手でも、そこにどう勝ち目を見出していくか。そういうことを考えながらやっている」
自分の力を最大限有効に生かすための術を身につけているのだ。
例えばロングボールの競り合いならば、いち早く落下地点に正確に移動し、競り合おうとする相手選手に対して自分から一度体をぶつけ、バランスを崩させてからボールにアプローチする。どれだけ大型の選手でも、動いている時には重心がずれていることが多い。角度を変えて当たれば、どんな相手でもバランスを保ちながらボールに向かうことは難しくなる。
飛び込むかどうかではなく、どのように飛び込むか。自分の間合い、飛び込むスピード、当たる時のパワーを高いレベルで把握しているからこそ、駆け引きの中で相手選手の体の前へと上手く体を潜らせてボールを奪い取ることができる。
まさに“心技体”すべてがハイクオリティーで備わっているからこそ、長谷部は今もなお非常に優れた選手なのではないだろうか。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。