渡独する日本人選手が直面する“壁” 現地アナリストの証言、“結果”へのシビアな評価
【日本人アナリスト浜野裕樹の奮闘|第6回】リーグの壁を乗り越えるために必要なものは?
海外組はプロクラブだけにいるわけではない。ドイツをはじめ欧州のいろんな国へ、日本から本当に多くの“サッカー留学生”が訪れる。思い続けた、追い続けてきた「プロ選手になる」「プロ指導者になる」という夢を叶えるために、自分の可能性を信じて日本を飛び出してくる。
でも、残念ながらどんな思いも願えば叶うわけではない。どれだけ夢焦がれても、どこかで壁にぶち当たり、ライバルとの戦いに敗れる選手のほうがどうしたって多いのだ。プロの世界へ続く道は、いつの時代もとても険しい。
僕が調べた限り、ここ15年ほどで日本人選手で下部リーグから挑戦を続けてレギオナルリーガ(4部)まで辿り着いた選手はいるが、そこからブンデスリーガ3部以上へとステップアップを果たせた選手はまだいない。下部リーグからの昇格ではないけど、デュッセルドルフでU19ブンデスリーガから4部リーグ所属のセカンドチームに昇格し、トップチームデビューに向けて邁進しているアペルカンプ真大が、一番近い立ち位置にいるだろうか。
どうすれば上のリーグでも活躍し、さらなるステップアップを遂げていくことができるのだろうか。3部リーグのビクトリア・ケルンでアナリストを務める浜野裕樹とのインタビューでは、そうした「リーグの壁を乗り越えるために必要なものは?」というテーマでも話を交わした。
「例えば、それは5部と4部との間でも同じような理論が働いていると思うんです。5部リーグで日本人FWが20点くらいとって、4部クラブに移籍してということはありました。でもそこで点が取れなくて、足踏みをしてしまう。リーグが上がると当然、相手選手も個々のレベルが上がりますけど、それでもチームの中で求められる仕事をこなせるかが大事になってきます」
それまでのリーグで求められていた能力と役割が一つ上のリーグになると変わり、本人の得意なプレーと噛み合わなくなってしまう。浜野自身にも経験がある。所属するビクトリア・ケルンは昨季4部で優勝し、3部に昇格したわけだが、そこで自分たちが直面したのは、それまでと全く違うサッカーをしなければならない現実だった。
「今僕らがいる3部リーグだと、FWにはとにかくボールを収められる能力が求められるという印象が強いです。ロングボールの数も頻度も多くなるなかで、極端な話、動き出しとか細かいのはしっかりしてなくてもいいから、前線で起点となれるかどうか、そしてシュートを打てる時に多少無理やりにでも打って、それでもゴールを決めることができる選手がまず必要となるわけです」
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。