原口元気はロシアW杯日本代表の“生命線” 献身的な上下動で「ミドルプレス」を機能させた
バルサが持つ条件を満たさない日本、ミドルプレスに見出す活路
次にロシアW杯の日本の守り方を見てみよう(図2参照)。
2トップの位置、プレスの開始点がバルセロナに比べてかなり低い。そもそも4-4-2は、ハイプレスに向いていない。FWの第一ラインが2人、MFの第二ラインが4人なので、5レーンのどこかは空いてしまう。例えば、相手のMFがハーフスペースに引いて3人でパスを回す形になった時点で、前進してプレスを続けるのは難しくなる。サイドハーフは1人で相手2人への守備をすることになり、そうなったら引き込むしかないわけだ。もちろん、日本はミドルゾーンに相手を引き込む前提で守っている。
なぜミドルプレスなのか。まず、ロープレスではゴール前での高さ、パワーの勝負に持ち込まれやすく、その場合の劣勢が予想される。しかし、ハイプレスに4-4-2は向いていないうえ、バルサが持っている条件を満たしていない。
1 ボール支配力=相手を深く下げる
2 DFのスピードと1対1の対応
3 GKの守備範囲と足下の技術
この3つのうち1つが欠けても成立しない。ロシアW杯の日本(および現在までの日本)は、3つの条件の1つも満たしていないので、ハイプレスは無理であり、そもそもそうするつもりもなかったわけだ。
吉田麻也、昌子源のCBは広大なスペースで競走するのは厳しいが、ある程度限定されたスペースならば対応できる。横からのクロスボールでなく、縦のロングボールなら競り勝つ強さもあった。下がりすぎず、上がりすぎずのライン設定には適していた。
日本の守備のストロングポイントは、サイドへの追い込みと囲い込みの速さだ。原口、乾貴士のサイドハーフにスピードと運動量があり、サイドへ追い込んだらサイドバック(SB)と挟み込む。さらにボランチが内側を封鎖。あっという間に出口を塞ぐ。このポジション移動の迅速と運動量が、ミドルプレスで生きていた。大迫勇也、香川真司の第一ラインの方向付けも上手かった。
この日本の守り方はサイドハーフの負担が大きい。守備でハードワークしたうえで、攻撃では前へ出て行かなくてはならない。原口はその点で素晴らしい仕事ぶりだった。ベルギー戦の長いランニングで柴崎岳のパスを呼び込み、そのままゴールしたシーンは原口ならではのプレーだった。
守備に難があると言われていた乾は、エイバルで守備力を身につけて過酷な上下動をこなし、香川との息の合ったコンビネーションは攻撃のエンジンになっていた。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。