原口元気はロシアW杯日本代表の“生命線” 献身的な上下動で「ミドルプレス」を機能させた

【歴代名手の“私的”技術論|No.9】原口元気(日本代表MF):日本代表を機能させるサイドのキーマン
いちおう原口元気の回としているが、技術論というより日本代表の守備に焦点を当ててみたい。
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森保一監督は、2018年ロシア・ワールドカップ(W杯)の戦術を引き継いでいる。4-4-2のミドルゾーンでのプレスが基本である。守備の鉄則として3ラインがコンパクトであること。その守備ブロックをどの場所に置くか、どこで守るかについてはハイプレス、ミドルプレス、ロープレスと3つに分けられるが、日本はミドルプレスがメインになる。もちろん、状況に応じてハイプレスも行うし、押し込まれれば低い位置での守備になるが、ミドルプレスが理想的だ。
なぜミドルプレスなのかという前に、なぜハイプレスでないのか。
![[図1]バルセロナ(当時)のハイプレス【画像:著者提供】](https://www.football-zone.net/wp-content/uploads/2020/06/20200604_1_Football-ZONE-web1.jpg)
少し古い話だが、当時のバルセロナのハイプレスの図を見ていただきたい(図1参照)。3ラインをコンパクトにするのが鉄則と書いておいてあれなのだが、バルサのハイプレスは2ラインしかない。ここでメッシは、守備の勘定には入っていない。第一ラインは右からペドロ、シャビ(チャビ)、ブスケッツ(ブスケツ)、イニエスタ、ビジャの5人。第二ラインがダニ・アウベス、プジョル、ピケ、アビダルの4人だ。
ポイントは第一ラインが5レーンをすべて埋めていること。ここではボールを持っている相手の右センターバック(CB)に対して、バルサの左ハーフスペース担当のイニエスタがプレスをかけている。イニエスタの担当レーンには相手のMFがフリーになってしまっているが、イニエスタ自身がコースを塞いでいるので直接パスは通らない。通ってしまった場合はブスケッツか、高い位置を取っているDF(アビダル)がカバーする。
第一ラインが5レーンをすべて埋めていて、自分のレーンにいる相手に対しては前進してプレッシャーをかけていくので、相手にしてみればパスワークでバルサの第一ラインを通過するのは難しい。コンパクトでディフェンスラインが高いので、ロングボールで裏を突くことはできるが、ピケ、プジョルはスペースカバーに長けていて、GKも高いポジションでカバーしている。
つまり、ハイプレスをメインにするには5人でフィールドの横幅を埋めきって圧力をかける必要がある。5人の壁でプレスして、抜けて来たボールを第二ラインが拾う。ハイプレスに適した守り方だが、逆にこれでミドルゾーンをメインにするとブスケッツの脇が空きやすくなるので得策ではない。
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西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。