最高のドラマを演出した劇的ダイビングヘッド弾 仙台エースを送り出した石原直樹の“はなむけ”
【J番記者が選ぶスーパーゴール|仙台編】2018年J1第25節清水戦(後半アディショナルタイム)…石原直樹の劇的ダイビングヘッド弾
去り行く仲間を最高のドラマで送り出した。2018年9月1日、J1リーグ戦第25節の清水エスパルス戦(2-1)。ホームのベガルタ仙台は1-1の後半アディショナルタイム、FW石原直樹(現湘南ベルマーレ)の劇的な決勝ゴールで勝利を飾った。この一戦、CSKAモスクワ(ロシア)に完全移籍が決まったFW西村拓真が離日前にスタジアムで見守っていた。
当時34歳のストライカーは試合後、「『しっかり勝って送り出そう』とみんなで話していたので、できてよかった」と思いを語っている。当時21歳の若武者の門出を祝う一撃を放てた喜びが表情に満ちた。
西村に勝利を届けたい強い思いとともに、ベテランらしい巧みな読みが光ったゴールだった。右サイドを攻め上がったDF蜂須賀孝治の右クロスをファーサイドでフリーのMF中野嘉大(現北海道コンサドーレ札幌)が中央に折り返す。鋭く反応したのが石原。「信じてポジションを取った」。絶妙のタイミングでゴール前に飛び出し、頭で強く合わせてゴールネットを揺らした。
思いはイレブンも同じ。前半24分にDF大岩一貴(現湘南)がCKを右足で合わせて先制したが、後半10分に清水のエースFWドウグラス(現ヴィッセル神戸)のゴールで追い付かれる。苦しい展開にも試合の流れは決して手放さなかった。怪我から復帰したMF野津田岳人(現サンフレッチェ広島)を中心にボールを保持し、相手の気力と体力を削り続けてゴールをお膳立てした。
この年、富山第一高から加入して4年目だった西村は飛躍的な成長を遂げていた。8月までに日本人トップタイのリーグ戦11ゴールを重ね、海外挑戦の好機をつかむ。「『拓真がいなくなって勝てない』と言われたくない。安心して海外でプレーしてもらいたい」と石原。後輩へのはなむけと先輩としての意地。二つの思いが渾身のゴールに凝縮されていた。
2年近くが経ち、西村は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大もあって仙台に復帰。石原も古巣の湘南に復帰した。中断しているリーグが再開し、今度は対戦相手としてピッチ上で交わる時、2人はどんなドラマを演じてくれるのだろうか。その時が楽しみだ。
原口靖志●文 text by Yasushi Haraguchi